第11章 術計の宴 後
女と凪の間へ割って入った男───光秀は、凪へ背を向けたまま、口元に笑みを薄っすら浮かべて淡々と感情の色なく告げる。
光秀の表情は無であり、笑みだけが浮かんでいる様がいっそ異様な程であった。しかし、凪は背を向けられている為、光秀の顔を窺い見る事は叶わない。男の表情を目にしているのは、その場に居る家臣達と、主に同じ広間内に居る武将達であった。
「こ、の…っ」
「お前の素性については既に調べが付いている。突如現れたこの娘を使い、一計謀ったつもりだったのだろうが…あてが外れたな」
笑みを刻んだままで紡がれるそれに、女が身を震わせる。やがて秀吉の命によりやって来た家臣達数名が女の身柄を取り押さえ、両腕を背後へ回させると硬く縄を掛けた。
無理矢理低頭させられた女の怒りに血走った眼を一身に受けながら、光秀は片膝をつくように女の前へ屈み込む。
固唾を呑んで状況を見守る多くの者たちの注目を受けながらも、一切動じた素振りを見せない男の指先が女の顎を捉えた。そうしてそのままぐいと力任せに上体を持ち上げさせ、彼女の耳元へと顔を寄せる。
「…お前の敗因は三つ。ひとつは情報を鵜呑みにし、精査せず下策を立てた事」
「…っ、」
「ふたつ…凪を侮り、その能力を見抜けなかった事」
わざとゆっくりした調子で音にされたそれが薄い唇から囁き落とされる様に、女の怒りが表情へ滲んだ。
それを受けて尚、ただ薄っすらと笑みを刻んでいた光秀の口元から、すべての表情が消え去り、音だけが女の鼓膜へ注ぎ込まれる。
「────…みっつ、俺の描いた筋書き通り、お前が寸分の狂いもなく、舞ってくれた事。…術計の宴を企てたのはお前ではない。この俺だ」