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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第11章 術計の宴 後



おそらく間違いはないだろう、凪の見開いた眼が光秀に向けられたまま小さく揺れた。
その様を目の当たりにした秀吉も、何かを思い当たった様子で光秀を見やる。その時、いつの間にか膳へと戻していた空の盃を、光秀が音も立てぬままにそっと手に取った。

「そうか、では凪が毒を仕込むよう指示する隙があったか、確認せねばなるまい。────…千代」
「はっ、罷り越して御座います」

信長の呼びかけにより大広間の襖が開かれ、そこには両膝をついて三指をつき、頭を深々と下げたお千代の姿がある。
凛とした声色のまま臆面なく参上の意を伝えたお千代は、頭を下げた状態で毅然と告げた。

「結論から申し上げますと、凪様にその隙など一切ございませぬ。わたくしは軍議の後、光秀様の命により片時たりとも凪様のお傍を離れてはおりませぬ。わたくしが命を受けている最中には、直属の女中にお相手を勤めさせておりました故、間違いはございません」
「ほう…?凪が俺に毒を盛ったとそこの女が言っておるが、貴様はこれを何と見る」

淀みのないお千代の発言を耳に、信長が余裕の笑みを浮かべて悠然と脇息へ肘を置き、頬杖をつく。問いかけを耳にしたお千代は、緩慢に顔を上げた後で女中を冷たく一瞥し、紅を引いた唇へ皮肉を込めた笑みを浮かべた。

「なんとまあ、とんでもない下策を立てました事。ひと月前より好き勝手泳がせていた何処ぞの間諜が何をしでかすかと思えば、凪様を陥れようとするとは。……貴女の舞うその場所が、かの御仁の手のひらの上だと気付きもせずに」
「な…っ!!?」

(…やっぱり、これは光秀さんの!)

お千代の発言に、大勢の家臣達は勿論、武将達の視線が一気に光秀へ向けられた。
片手で軽く盃を弄んだ後、数多の視線が向けられた男は緩やかに瞼を伏せる。長い睫毛が影を落とし、形の良い唇がここに来てそっと笑みを刻む様を女中が目にして、金切り声で叫ぶ。

「しかし!貴方は凪様が黒だと、お千代様と共に話し合っていたではありませぬか!長旅の間に完全な尻尾を掴めるかと思ったが、とそのように…」
「……ほう、あの場には千代と俺しか居ないものと思っていたが、よもや聞き耳を立てられていたとはな」
「…っ」

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