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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第11章 術計の宴 後



「…確かにこのお銚子の中には、お酒と一緒に毒が混ざっています。多分種類は鈴蘭毒。体内に取り込むと嘔吐やめまい、心ノ蔵が麻痺する状態になり、摂取量によっては最悪…半刻で命を落としてしまいます」
「毒だと…?」

怪訝な色を過分に含んだ秀吉の呟きを受け、家臣達は大きくざわつく。主君たる信長の為に用意された銚子に毒が仕込まれたなどと言い出したのだから、それ等の反応は至極妥当なものである。
武将達というよりは、一部のいきり立った家臣の憎々しげな眼差しに竦みそうになる身体を叱咤し、凪は真摯な面持ちで秀吉に対して同意を見せた。

「…お前、片棒を担いだと言ったが、その言いようだと凪が毒を仕込んだという事になる。そいつはどう説明するつもりだ?」

それまで無言で様子見をしていた政宗が、凪ではなく平伏したままの女中へ問いかける。探るような鋭い隻眼が女の横顔を射抜き、震えた彼女は顔を伏しつつも懸命に申し開きを述べた。

「おそらく、いざ毒を信長様が呷られるとなった瞬間、怖気づいたのでございましょう。当然でございます…天下人に毒を盛るなど、誠に恐ろしき事ですから」
「へえ…なるほどな」

果たして納得しているのか否か、政宗は胸の前で腕組すると低めた声色で相槌を打つ。やがてそのまま視線を凪へ向け、彼は再び口を開いた。

「この女はそう言ってるが…凪、お前はどうなんだ?」
「事実無根です。…というか、そんなバレて注目受けるような事、普通しないでしょ」

好き勝手な事を言う女中へ苛立ちを溜め込んでいた凪の眉間が深々を皺を刻み、きっぱりと言い切る。怒気滲む声色は語尾が強く、到底怖気づいて盃を払ったような様など見えはしない。微かに肩を揺らして笑った政宗が確かにな、と呟いた後で左隣に座する光秀を見やれば、男はやはり、ただ黙って事の成り行きを見守っているようであった。

政宗と凪とのやり取りを見ていた秀吉に至っても、湧き上がる疑念を抑えきれない。あんなにも凪を気にかけていた光秀が、まるで突き放しているかの如く沈黙を貫く様はいっそ秀吉には異様に見えた。いつものように、何か裏があるのではと勘繰ったところで、それまで静かに上座へと座していた信長が、おもむろに言葉を発する。

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