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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第11章 術計の宴 後



「あの、これは…!」
「────…申し訳ございませんっ!!」

事情を説明しようと凪が口を開いた瞬間、銚子を運んで来た支子色の小袖の女中が額を畳へ擦り付けんばかりに深々と土下座し、身を震わせた。
事の成り行きを動じぬまま見守っていた信長の緋色の眼が女を映して静かに眇められる。
突然謝罪の言葉を述べた女中へ戸惑いの色を揺らした凪が彼女を振り返ると、女は頭を上げぬまま震えた声色で涙まじりに叫んだ。

「わたくしも、この一件の片棒を担いだ不届き者にございます…!!」
「はあっ!?」

うっかり素で反応してしまった凪を他所に、主に家臣達の間で動揺が瞬く間に広がって行く。さざなみのように言葉を発する家臣達の視線が少しずつ険を帯びて凪へ突き刺さって行く様をその身で感じ、凪の指先が微かに震えた。怯えではない、そこに滲んだのか確かな怒りである。

女中の突然過ぎる告白に秀吉が疑念と惑いを抱いて凪と伏した女を交互に見やった。
三成は緊張を過ぎらせた眼差しで、しかし何処か案じるように凪を見やり、政宗は感情を窺わせない隻眼で静かに女を見ている。

「違います、私は何も知りません」

幾つもの敵意が感じられる眼差しを一身に受けながら、凪は自らの心を落ち着けようと一度瞼を伏せ、それを覗かせた後で毅然と告げた。彼女の視線は誰でもなく、ただ信長の御前で頭を伏せている女へと向けている。
そうでなく、例えば視線を何処かへ巡らせてしまっては、きっと。

(…光秀さんを、頼ってしまう)

それはしてはいけないと思った。
この乱世には様々な陰謀や思惑が渦巻いている。それは摂津で様々な経験をした凪自身がむざむざと思い知った事で、都度光秀を頼っているようでは、三ヶ月とはいえ、ここで過ごすとしても結局迷惑をかけてしまう。

───常に毅然となさいませ。己の意に沿わぬ事があらば、お声をお上げください。決して怖気づいてはなりません。

ふとお千代の言葉が脳裏を過ぎる。言うべき事を言わず、流されるままではきっと、この先もずっと妙な疑いを持たれて過ごさなければならないのだと考えた凪は、意を決した様子で口を開いた。

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