第3章 出立
笹の葉で丁寧に包まれていたその中には、程よい大きさの握り飯が二つ並んでいた。三角ではなく、丸い形のそれは白米に何かが混ぜられているようで、一つを手に取った後でそっと口をつける。
「葱と味噌が混ざってる…美味しい」
伊達政宗が料理上手だというのは史実などでも割と知られたエピソードではあるが、それを実感する日が来ようとは。炊いた白米に葱味噌を全体的に混ぜたそれは、程よい塩分と葱の食感を口内に運ぶ。少し濃いめの味噌が塩の混ざらない白米にちょうど良い塩梅だった。
感心しつつ一言零した後、急に食欲をそそられた凪が葱味噌握りを食べ進めていく。それを横目に見ながら、自身も手にした握り飯へ口を付けた光秀は、咀嚼しつつ、いつもと変わらないぼんやりとした感覚を受け入れて、まるで作業のように食を淡々と進めた。
「というか、あんな早朝に出発したのに差し入れしてくれたなんて、一体何時から起きてたんですか、政宗さん」
「普段は流石にあそこまで早起きではないんだろうが、お前を連れて行くにも関わらず、俺がまともな食事を用意しないんじゃないかと気を回したらしい」
「…光秀さん、普段どんな携帯食準備して旅に出てるんですか?」
「水と塩だな」
(ジャングルに乗り込むサバイバーみたいな回答!?)
思わず片頬を引き攣らせ、食事の手を止めた凪の様子など気にした風もなく、光秀は一つ目めの握り飯を食べ終える。次いで二つ目へ手を伸ばし、特に何の感慨もなく食べ進める姿を視界に入れ、ようやく一つ目を食べ終えた凪が竹筒へ手を伸ばした。
「おにぎりって、塩とか梅干しが一般的だと思ってました。葱とお味噌も合いますね」
(無事に安土へ帰れたら、政宗さんにはしっかりお礼しよう)
無論現代ではそんな事はないのだが、この時代という事を考えれば画期的なメニューである気すらしてくる。政宗が気を回してくれなければ、もしかしたら今頃自分も塩を舐めていたかもしれない事実を思うと恐ろしい。
この時代、果たして何で感謝を伝えるべきかを悩みつつも、何気なく発した言葉は、変哲もない日常会話の一つだった。特に意味もなく告げた一言に対し、ふと食事の手を止めた光秀が、握り飯を見下ろして呟く。