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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第10章 術計の宴 前



「……わかりました。頑張ります」
「清秀から得た文については精査し、追って周知する事とする。各々備えを十全にし、報せを待て」
「────…はっ!」

凪の了承に満足げな様を見せた後、信長が厳かに命じれば武将たちは居直って拝受した。
ようやく軍議も終わりかと内心息を漏らした凪だったが、その中でふと静寂を裂く毅然とした低く艶の乗った音が空間へ響く。

「お待ち下さい、信長様」

真っ直ぐに信長一人を見つめ、金色の眼に真摯な色を乗せた男の姿は皆の注目を集めたが、当人はさして気にした様子もなく、自らの主へ身体の向きを変えて居住まいを正した。
発せられた光秀のそれへ、信長は敢えて淡々とした眼差しを向けて応え、傍らに置いた鉄扇を手にし、脇息へかけた方の手の中で軽く打ち付けるよう弄ぶ。

「なんだ」
「一つ、お願いがございます」
「ほう?…許す、言ってみろ」

ぱしん、と手のひらへ強めに打ち付けられた鉄扇が音を立てた。鉄扇の先を軽く握り込み、感情の窺えない緋色の眼を向けられた光秀は一度瞼を閉ざした後、やがて緩慢にそれを持ち上げ、笑みの消えた面持ちで続ける。

「清秀殿とその娘が接触した原因は私にあります。あの男の性格ややり口を思えば、興味の対象である凪に危険が及ばないとも限りません。……よって、責任を取る意味も含め、私に凪の護衛をお任せいただきたく存じます」
「……貴様が護衛だと?」

(───…ええっ!!?)

抑揚のない調子ではっきりと言い切った光秀への反応は様々だった。緋色の眼を静かに眇めた信長の問いと、凪の本日何度目かになる驚愕の(内なる)声が重なる。
よもやそこまで重大な展開になるとは思わず、ただ目を見開くばかりであった。あの亡霊、色々ロクでもない事をしていたとは知ったものの、そこまで危ない奴だったのか、というのが素直な感想である。

「はい。是非、お許しいただきたく」
「───…ちょっと待て!またお前は何事も一人で勝手に決めやがって。大体ただでさえ多忙なお前がどう護衛をするつもりだ」

はっきりと申し立てた光秀の一言へ、すぐさま反応を示したのは乞われた信長ではなく、傍に控えた秀吉だった。

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