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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第10章 術計の宴 前



光秀の内心を他所に、秀吉が難しい面持ちで眉根を顰めた。
それだけ信用のない男という事なのだろう、元々曖昧な情報の文を頼りに動くのは悪手ではないかと懸念を示す右腕に対し、ふと信長が低く割って入る。

「…いずれにせよ、あやつから情報を得るにはこの女が必要という事に違いはない。そうだな、光秀」
「………おっしゃる通りです。加えて、文の情報は不確かなものではありますが、少なくとも偽りのない事は確認が取れております」
「ほう?」

光秀と信長のやり取りを耳にし、凪は清秀と別れ際に交わした最後の言葉を思い出した。
酔芙蓉の花言葉は【心変わり】。その花が一輪文に添えられていたと光秀は言っていた。そしてあの時、光秀に言伝として頼まれていた言葉は。

「【芙蓉、君に宛てたものに一切の偽りはない】」

思い当たった様子で小さく呟いた凪へ視線が一気に集まる。それは光秀と信長も同様であり、片やはひどく興味深そうな眼差しを送り、もう片やは何処か複雑そうな視線を送っていた。
信長が凪を真っ直ぐ見やっている様には、真実を見極め、情報を精査するような色の他に、純粋な興味が見え隠れしている。それに当然気付かぬ光秀ではなく、長い睫毛を伏せた後でおもむろに閉ざしていた口を開いた。

「ご明答。お前が清秀殿から俺への言伝として託されたその言葉こそが、文の真偽を明らかにした。酔芙蓉の花言葉は【心変わり】。奴は自ら、それを否定してみせたという事だ」
「……はっ、なるほど。それは実に面白い。では、再びあやつが【心変わり】せぬよう、凪、貴様があの男の手綱を握れ」
「…えっ!?私がですか!?」

光秀の言葉ですべて心得たと言わんばかりに信長が脇息を一度軽く叩く。吐息で短く笑った信長は、凪へ真っ直ぐに視線を向けると強気な笑みを浮かべて何処か面白そうに告げた。
ひくりと動く光秀の眉根を視界の端へ捉えた信長はしかし、それに構う事なく凪の様子を窺う。
よもやそんな事を言われるとは思ってもみなかった凪が驚愕の声を上げると、横から秀吉の鋭い眼光が飛ばされた。
恐らく、信長様のご命令には逆らうな、といったところであろうそれに身を竦め、つい渋面を浮かべた彼女はやがて小さく頷いてみせる。

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