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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第10章 術計の宴 前



「では本題へ参りましょう。端的に言えば、摂津の異変はすべてある一人の男によってもたらされたものでした。その男は有崎城主、池田殿と城仕えの者たちを牢へ投じ、己が城主として成り代わった上で重税をかけて米をかき集め、更には有崎城に何処かから仕入れた南蛮筒とその火薬を貯め込んでおりました」
「…とんでもない悪党じゃないですか」

家康のそれは全くの正論である。
うっかり頷きそうになった凪は内心でそれをするに留め、話の続きへ耳を傾けた。

「残念ながら男を捕える事は叶いませんでしたが、私と…そこに居る凪は実際にその男と対面しております」
「ほう…?凪、前へ」
「は、はい…」

光秀の続いた言葉に興味を引かれたらしい信長が凪へ視線をやり、短く告げる。一番最初、軍議の場に呼ばれた時も同じ様に促された事もあり、緊張の面持ちを過ぎらせて立ち上がった彼女は、両端に武将が居並び、顔を上げた先に上座へ座す信長が居る中央へと進み出た。
凪が信長の御前で正座した姿を捉え、光秀は再び信長へ意識を向けると口を開く。

「摂津で様々な暗躍をしていたその男の名は───中川清秀」
「……なんだと」

光秀が何処か勿体ぶった様子で口にした有崎城の亡霊の名を耳にした瞬間、信長の眉根が僅かに動いた。
低められた声色には微かな驚きが滲んでおり、少なくとも初めて目にする姿に、凪は密かに息を呑む。

「まさかあの野郎、生きてやがったのか…!」

それよりも憎々しげな様子で吐き出したのは横に控えた秀吉だった。奥歯をぐっと噛み締め、怒りを面持ちに滲ませた男の物言いに少なからず驚いた凪の双眸が見開かれる。
隣に座る三成も重々しい面持ちであり、対して政宗と家康は直接的な面識はないのだろう、実に興味深いといった様子で場を見守っている。

「中川清秀といえば、石山本願寺での大戦で我が軍の兵糧や武器を敵方へ横流ししていただけでなく、三年前の有崎での戦を引き起こす切っ掛けにもなった男です。そんな男が万が一龍虎と手を組みでもすれば…厄介な事になります」

秀吉が真摯な眼差しで信長を見やり、進言した。
自らが仕えていた城主を裏切っただけでなく、自軍の物資を敵へ流していたらしいと聞かされれば、さすがに凪自身も驚きを隠せない。

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