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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第10章 術計の宴 前



真っ直ぐに向けられた金色の眼を見返し、ふと我に返った秀吉は表情を引き締めると二人へそれぞれ視線を向ける。

「長旅から帰還して早々だが、信長様が広間でお待ちだ。用件は光秀、お前がよく分かってるだろう。凪、お前も出席せよとのご命令だ。身支度を整え次第、顔を出せ」
「え…は、はい…っ」

真摯な面持ちで言い切られた言葉へは、もはや頷く他ない。
既に心得ている光秀はともかく、自分まで出席する羽目になるとは思っていなかった凪のぎこちない返事を耳にし、彼女へ一度視線を投げた光秀が溜息混じりに長い睫毛を伏せる。

「それを伝える為だけにここで待っていたのか?家臣へ言伝しておけば事足りるだろうに、まったくお前という男は…」
「…本当なら言いたい事は山程あるんだが、信長様をお待たせするわけにもいかない。さっさと行くぞ」

光秀が言わんとしている事を察したらしい秀吉は、それ以上の言葉を発する事なく着物の裾を翻して歩き出した。
その背を見やりながら、厩(うまや)へ戻すよう馬を家臣に預けて足を踏み出した光秀に倣い、自分も彼の隣を歩く。
軍議に出る、と告げられ、途端に重々しい表情になった凪へ向かい、光秀は僅かに身を屈めて凪の耳元へ唇を寄せた。

「お前は何か勘違いしているようだが、あの男は俺に対していつもああだ」
「……いつもあんな言い合いしてるんですか」

仲は悪いだろうな、とは思っていたが実際に間近で目にするとなかなかに壮絶である。つい半眼になった凪へくすくすと笑いを零した後、光秀は更に笑みを深めて音を発した。

「それに、秀吉なりにお前を心配してもいたんだろう。なにせ、奴は筋金入りのお人好しだからな」
「………え?」

何処らへんを心配していたのか、とまで問うてしまうのはさすがに無粋だと思ったのか、可笑しそうな光秀の言葉へ首を傾げながら、凪は双眸を幾度か瞬かせる。そのまま少し離れた前方を歩いている秀吉の背を見つめ、凪は更にそっと首を傾げたのだった。

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