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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第10章 術計の宴 前



「戯言を囀る為だけに来たならさっさと帰れ。少なくとも俺は、お前のように暇ではない」
「冷たいなあ、相変わらず」

一瞥をくれただけで刺すような冷たい音を発した帰蝶に対し、清秀は特に気分を害した様子もなく、テーブルを挟んだ向かいにもう一対置かれたソファへ足を進め、そこに腰掛ける。
西洋の調度品で溢れた一室、その一角に置かれた白い鳥かごの中に収められた一羽の小さな小鳥が、羽を広げて愛らしい声を発した。

「キチョー!フク、コワイ」
「……福が怖がっている、少し離れろ」
「意外と過保護だな、君も」

ぱさぱさと懸命に羽ばたき、籠の中で清秀から距離を取ろうとする小鳥へ視線を投げ、瞼を伏せると吐息を零す。
離れるといってもソファの位置は変わらない為、奥側へ大人しく席を移動した清秀の揶揄混じりな言葉に、帰蝶はただ何も応える事なく、切れ長の双眸を眇めただけだった。

「君から買い付けた品が無事、此処へ戻って来れたようで何よりだ。やはり海路は隔てるものがない分、陸路よりもずっと早いね」
「突然商船を呼び付け、秘密裏に運ばせたものを突き返して来るとは何事かと思ったが、あの男に嗅ぎ付けられるとはとんだ失態だな。…あるいは、わざと嗅ぎ付けさせたのか」

油断のない帰蝶の眼が剣呑な色を乗せて清秀へと注がれる。
ほとんど確信的な物言いを耳にし、清秀は肩を竦めて長い睫毛を伏せた。色素の薄い端正な面へ浮かぶ笑みは何処か含みがあり、読めない腹の内を探るよう、帰蝶の眼光が鋭くなる。

「いや、別に最初は教えてあげるつもりはなかったんだけど…予定が変わってね。君からあの南蛮筒を買った時は、摂津を主軸に、また面白い戦でも始めようかと思っていたんだ。でも、そうもいかなくなった」
「……ほう?」

淡々と語る清秀の声色に、ほんの僅かな感情が覗く。
その微細な変化を見逃さず、帰蝶の整った面持ちが訝しげに顰められた。

「だから、君と改めて手を組もうと思って」

清秀の瞼がおもむろに持ち上げられ、灰色の眸が真っ直ぐに正面へ座る帰蝶を射抜き、低く色めいた音が言葉を発する。
紡がれた音に、帰蝶は些か驚いた様子で双眸を瞠った。

「毒将、中川清秀は一度組んだ相手とは二度と組まない、と界隈では有名な話だったと記憶していたがな」

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