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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第9章 帰路



凪の片手、弓を握る左手には確かに光秀が指した箇所にまめが出来ていて、手のひらの皮も一部は固くなっている。
果たして一体どこでそんな事を観察したのかと思考を巡らせた際、ある事に思い至って双眸を瞬かせた。

───それは安土を出立する前の事。
馬上へ自分を引き上げてくれた光秀が、その手をしばらく握り込んで離さなかった時の事だ。

あの時はさして気に留めていなかったが、凪を引き上げる際、差し出した手へ彼女がそれを重ねた時から、この手のひらのまめや皮の厚さを触れる事で察していたという事だろう。

(あの時からずっと分かってたの!?)

光秀の洞察力と観察力が相当なものである事は今回の旅だけでも十分分かった事ではあるが、やはり驚きを隠せない。
どうやらいつ自分が気付いたのか、思い至ったらしい凪を視界の端へ捉え、吐息を零すように笑ってみせた光秀は触れていた彼女の手を親指の腹でひと撫でした後、解放する。

「…それで驚かなかったんですね」
「扱える事自体に驚きはなかった。…だが、まさか一射投じるとまでは思わなかったな。お前は時に俺の予想を容易く越える」
「さっき言った子供達が学ぶところで、自分の好きな習い事…みたいなのを選んでやる事が出来るんです。そこで五年くらいやってたんですよ」
「……そうか」

正直、あの時は無我夢中と言っても過言ではなかったので、そう何度も出来る事ではないかもしれないが、積み重ねた事が役立ったのは純粋に嬉しい。

凪の言葉に相槌を打った光秀は、それ以上弓の事を掘り返さず、代わりにふわりと頭をひと撫でして、再び手綱を握る。
凪も特に深く突っ込まれる事がなかったので話を切り上げると、ふと見覚えのある光景が視界へ映り込み、それと同時に心の内から滲むように出て来る不安めいたものに、思わず口を閉ざす。

木々が生えている長閑な街道の中で、ふと涼しげな風が頬を撫ぜる。それは近くに川がある事の証明であり、行きで一度休憩をした場所、即ち安土の国境付近だという事を示していた。
今回は堂々と国境を通過していくらしく、特に面倒な回り道をしない所為であと四半刻もすれば安土内へと至るだろう。

激動とも言える摂津の所為ですっかり忘れていたが、安土城では自分をいまだ疑っているもの達(主に豊臣秀吉)が数多居るのだ。

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