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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第8章 摂津 肆



淡々と問いかけられたそれへ言い淀めば、更に追い打ちをかけるようにして言葉を重ねられた。自ら口を開きたくなるような事とは一体なんだと言いたいところだが、それこそ藪蛇というものである。
視線を泳がせ、思考を巡らせている凪の様子を静かに見守っていた光秀が、それまで預けていた柱から背を離した。
そうして片膝を立てたままの体勢で彼女へ上体を寄せた光秀の端正な面(おもて)が近付く。

「……それとも、そうされる事を望んでいるのか?なら、期待に応えないわけにはいかないな」

伸ばされた片手が凪の頬をくすぐり、長い節立った指先がするりと耳朶へ伸ばされ、指先が耳縁の形を確かめるように滑る。耳たぶを爪で軽く弾かれ、凪の身体がびくりと跳ねた。

「違います!そんなんじゃ…」
「遠慮するな」
「してない…っ!」

弾かれた耳を咄嗟に片手で庇い、否定を紡ぐ凪の耳朶と目元に朱が散る。その様を間近で覗き込んだ光秀は微かに眼を眇め、刻んだ微笑を崩さず囁いた。
耳を庇っていない方の手で近付く光秀の肩を押しやると、観念した様子で彼女が口を開く。

「訊いたんです!八千さん、私の事やたら神聖視して来るから、殺されはしないだろうと思って」
「…な、」
「私の【目】は無理矢理従わせるような人には使えないって…それで、さっきの話を聞いたんです」

光秀の予想とは異なる返答だったのだろう。
押し返された事で少し空いた距離のまま、耳朶へ触れていた腕を下ろし驚いた様子で一瞬言葉を失った男は、再度紡がれたそれを耳にして眉根を寄せた。
眼へ映った男の面持ちに、凪が唇を引き結ぶ。それは初めて凪が目にする、光秀の秘めた怒りの姿だった。

「何故そんな無謀な事をした。油断を誘ったなら、その隙を突いて逃げるべきだとは考えなかったか」
「…それは、」

金色の眼が静かな色を灯し、凪を射抜く。
おそらく彼と知り合ってから初めて向けられる厳しい眼差しを前に、凪の肩が小さく跳ねた。
光秀の言う通り、確かに無謀な行動だったかもしれない。たまたま八千が凪の【目】を信じていたが為、乱暴な事はされなかったが、それは結果論でしかない。

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