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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第8章 摂津 肆



軽口を叩き合う合間は、また彼女の表情は見慣れた顰め面へと戻ってしまったが、それでも良い。
再び歩き出した光秀の腕の中で不服そうにしていた彼女へ視線だけを落とし、男はそっと口元を柔らかく綻ばせた。

(もう、その名を呼ぶ事を躊躇うまい)


────────…


有崎城へ到着した後、光秀と凪を迎え入れてくれた池田は、二人の様子を見てすぐさま一室を整えてくれた。
怪我の程を確認するだろうと、女中たちへ湯を張った桶や手拭い、軟膏や包帯など一通りの手当て道具一式を用意させ、次々に二人が居る部屋へと運ばせる。

今回の一件で池田は光秀へ深い感謝の念を示していた。
城の者たち、一部の命は奪われた形となってしまったが、それでも半数以上は生き残る事が出来たという。なにより、光秀が有崎城下町へ向けた深い配慮は、池田本人を泣かせてしまった程だった。
八瀬が率いていた兵達が連れ帰った黒装束の男達は、城に居着いていた牢人達とは別の牢へ捕らわれる形となる。
彼らは恐らく城の件とは無関係ではあるものの、そのまま野放しには出来ない、という池田の見解だ。
そのまま八瀬を含め、早馬の伝令係として光秀の家臣三人は、しばらく有崎城に留まり、周辺の調査と捕らえた男達の尋問などを行い、適宜連絡を交わし合うといった方向で話はまとまったらしい。
今後、もし何か有事の際には自分にも是非手伝わせて欲しいと池田やその家臣達から強く願い出てくれた。
当然、近隣の農村へ出されていた偽りの御触れも撤去の運びとなり、密やかに物々しい気配を漂わせていた摂津国、有崎城下町の変異は解決の一途を辿っていく。

そうした話の経緯を、光秀によって手当てされながら(かなり内容としては端折られてはいたものの)耳にしていた凪は、ようやく色んな話をまとめて聞いた事により、それぞれ抱いていた疑念などが一度に解消され、安堵の息を漏らした。
彼女の両足は、光秀によって丁寧に手当てが施され、親指と人差し指、その間には白い包帯が巻きつけられている。

自分で手当てくらい出来ると言い切った凪だったが、頑として光秀がそれを譲らず、文句を言っている間に手際よく済まされてしまった為、今は女中が用意してくれた茶と茶請けの菓子をひと心地つく為に頂いている最中だ。

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