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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第8章 摂津 肆



「よもやまた、梅干しの壺のように親切な町人から贈られたわけでもないだろう?気付かれずに髪に挿したという事は、背後から静かに挿すか、あるいは」
「わっ!?」

口元へ緩やかな笑みを刻んだ光秀が首を傾げ、試すような色を乗せて双眸を眇めた。そうして自由にしていた片手で簪を手にしたまま背へ回し、元々肩を抱いていた腕へも更に力を込めると、ぐいと凪の身体を強く抱きしめる。
腕の中に居たものの、少しの距離感があった筈の彼女の身体は呆気なく光秀の胸へと逆戻りし、最初の抱擁よりもきつめのそれに短い声を上げ、目を白黒させた。

「…こうして抱き締めた状態で、お前の気を引きながら挿すしかない」

硬い胸板へ頬を寄せた凪の耳朶へ光秀の口元が寄せられると、低く掠れた声が普段よりもいっそうの色を乗せて囁きを零す。
抵抗される前に唇を寄せた彼女の白い耳へ吐息をかければ、びくりと大袈裟なまでに肩を跳ねさせ、凪が掠れた声を上げた。

「や…ッ!?」

瞬間的に固まった凪の背を片手で宥めるように撫ぜながら、光秀がそっとその隙きに手にした簪を同じ位置に挿してみせる。

「ちょ、ちょっと…!!」
「おっと」

簪を挿された事に気付いているのかいないのか、恐らく後者であろう凪が手を無理矢理突っぱねて光秀の腕の中から逃れれば、抵抗なく腕を解いてわざとらしい声を男が上げた。
耳朶を真っ赤に染め、眉根を思い切り顰めた凪が片手で息を吹きかけられた方の耳を押さえながら光秀を睨む。
言動の伴わない降参のポーズで両手を軽く上げてみせた光秀は喉から微かな笑いを零した後、おもむろに腕を下げた。

「せっかくだから実践してやろうと思ってな。ちゃんと挿せただろう」
「わざわざそんな事しなくても口で説明してくれれば十分なんですけど。……あれ、本当だ」

肩をわざとらしく竦めてみせた光秀に対し、憮然とした表情を浮かべた凪が片手を後頭部へと回して感触を確かめると、紫陽花の簪の他に何かがもう一本挿されている事に気付き、驚いた様子で声を上げる。
紫陽花ではない方の簪をそっと抜き取った凪は、手の中にあるそれへまじまじと視線を向け、首を捻った。

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