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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第7章 摂津 参



「ああ、芙蓉(ふよう)殿の事か。確かに連れていたが…」

香車に八千と呼ばれたその男は、つい先日行われた光秀との会談の場を思い起こし、腕を組みながら手のひらで自身の顎下を軽くさすった。
脳裏に彼女の姿を思い起こしているのだろう、八千の様子をしばらく眺めていた男は、やがて口元に笑みを乗せると、囁くようにして音を発する。

「その芙蓉という女が、とても面白い事を言っておりまして。……なんでも、例の亡霊が八千様の元へ訪れるとか」
「まさか…明智殿が言っていた、あの中川清秀が…!?」
「ええ、ええ!数刻前に訪れた明智光秀が、有崎城の亡霊の正体を明かして来たと思えば、今度はその亡霊が八千様の元へ訪れるなどと。耳にした時には私もつい腰を抜かしてしまいそうでした」

八千は数刻前、光秀と密会を済ませたばかりであった。
その時、光秀の口から直々に亡霊の正体が嘗て有崎城で謀反を起こした際に、姿を消していた男だと耳にした時には、あまりの恐怖に震えたものだ。
何処か演技じみた香車の言葉を耳にして、膝の上に置いた両手を握り込み、それを見るからに震わせ始めた八千の顔色が青白く変わっていく。

「……た、確か座敷で出されたあの毒入り茶は、中川清秀が仕込んだものだと、明智殿がつい先頃、私に報告を…」
「確かにそう言っておりましたが…では何故、その芙蓉という女は貴方様の元へ亡霊が訪れるのを知っていたのでしょう?」
「そうだ、まさか中川清秀は明智殿と繋がって…!?」
「どうかお待ちあれ、八千様」

答えを急ぐようにして言葉を発した男の怯えようを前に、やけに落ち着いた調子で口角を持ち上げた香車は、緩く首を傾げたまま切れ長の紫紺色の眼を眇めた。

「女の言葉をそのまま申し上げましょう。【あの亡霊さんは、これから起こる何処かで八千さんに、光秀さんが実は織田軍を裏切っていないって事を伝えに来ます】」
「────…!!?」

耳にした一言一句をそのまま八千へ伝えて見せた男は、至極面白そうに肩を竦め、そうして瞼を伏せてみせる。

「いやはや、それはそれはまるで先見したかのような物言いでした。挙げ句、明智光秀は織田軍を裏切っていないなど…これをどのようにお考えですか?…八千様」
「…先見…、まるで先の世広く、全てを見通されている御仏がお持ちだという、天眼通のような…」

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