第7章 摂津 参
どう考えても普通とは言えない彼女の特異な【目】を、あるいは凪自身を見る目が変わったとしても仕方のない事である。
(…ていうか、突然こんな事言われてもなかなか信じられないよね)
客観的に自分で考えてもそうなのだから、体感した事のない他人であれば当然とも言えるだろう。内心で苦く痛んだ心を押し隠し、瞼を伏せた。
その瞬間、冷たい指先が伏せたままの凪の目元を優しく撫ぜる。
「…!?」
驚いて咄嗟に瞼を持ち上げれば、真剣な面持ちをそのままに彼女を真っ直ぐに見つめている男の姿が視界へ映り込んだ。
「…あの?」
侮蔑や恐怖、不審、疑念すら、一切抱いていない静かな金色の眼が凪を見つめている。
戸惑いに揺れた短い音が鼓膜を打てば、光秀は真摯な表情を浮かべたままで低く囁いた。
「二つ、約束しろ」
「約束…ですか?」
想像に及ばない言葉へ凪が見開いた双眸を瞬かせる。
自らの音を短く反芻した凪から目を逸らす事なく、光秀は再度彼女の目元を撫ぜた。
「一つ、どんな事があっても自ら【目】は使うな」
「……え、」
「二つ、何かを【見て】しまった時は、隠さず俺に言え」
淡々とした調子の声に光秀の感情は乗っていない───筈だった。
しかし、凪には男の言うそれが、すべて自分の為だけに発せられたもののように感じられて、そっと息を呑む。
(…使うなって言ってるのは、私をきっと心配してくれてるから)
恐らく本人にそのまま問いかければ、面倒を増やさない為だなどと皮肉めいた言葉が返って来るだろう。隠すなと言ったのは、自分が一人で危ない橋を渡らないようにする為なのだろう。
それをきっと、光秀は一緒に抱えてやる、と告げてくれている。
「……光秀さんって、やっぱり不器用な人ですね」
眉尻を下げて苦く口元を綻ばせると、幾度か去来した彼への印象を音にした。
凪の告げている意味を察した光秀が、眉根を寄せて瞼を伏せた後、呆れた調子で吐息を漏らす。
「……呆れる程に警戒心の薄い娘だ。自分に都合良く解釈をするのは勝手だが、俺は…────」