第7章 摂津 参
(……戦を知らぬ世で育った娘が、程度は分からぬとはいえ血生臭いものを見てしまっては、ああも怯えるのも当然だろう)
「…目の色が変わっていたのもその所為か」
「やっぱり見えちゃってましたか」
確信的に落とされた言葉を耳にして、凪は困ったように眉尻を下げる。それは肯定と同義であり、隠す素振りもなく彼女は首を縦に頷かせた。
「それも実は後から気付いて。子供の頃、近所の子と遊んでる時にそれが起こっちゃって、その時に見られたみたいです」
凪の元の目は黒々としていて、それが深く濃い目の青色に変わったとしても、光の角度だなんだと言って場合によっては誤魔化せる程度であり、劇的と言える程の変化ではない。
今であれば青色のカラコンの方がいっそ発色が良い程だが、当時の子供にとっては衝撃だったのだろう。泣きながら家に帰ってしまった嘗ての光景を思い起こし、凪が苦く笑った。
「……つまり、お前は時折お前自身の意思に関係なく、先に起こる事象を目にする事が出来る。…が、その情報は断片的なものでしかない、という解釈で合っているか」
凪の話を淡々と整理して見せた光秀は、何かを思案した様子で片手を自らの顎へあてがう。
「そういう事です。……それから、この際だからついでに言っちゃいますけど、もう一つ、【目】の事で出来る事があります」
光秀のそれを肯定するよう頷いてみせた凪は、初めて他人に自らの目について語った事により、ある意味で吹っ切れてしまったのか、言葉を続けた。
よもやまだ【目】についての話があるとは思わず、さすがに驚きを露わにした光秀であったが、僅かに口を閉ざしたのち、まるで茶化すようにして喉奥で低く笑いを零し、口角を緩やかに持ち上げる。
「…ほう?お前は何の変哲もない娘と見せかけてその実、この俺相手に隠し事を二つもしていたというわけか。…全く恐れ入る」
「そんなさらっと言えるような事じゃないですよ。下手したら頭のおかしい奴って思われるじゃないですか」
(…お前のように愚直な娘が一人で抱えるには、さぞ厄介な力だったろう)