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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第7章 摂津 参



不意に告げられた音は、数日前の出来事を即座に凪の脳裏へ蘇らせた。
摂津へ出立した日、休憩がてらに立ち寄った川辺で【見て】しまった事がきっかけである───光秀に半ば無理矢理取り付けられた約束。

(やっぱり、今回は見逃してくれない)

───その代わり、次に何かが起こったなら、その時は包み隠さず俺に全て話せ。

八千と清秀が今後繋がるといった事を路地裏で光秀に告げてしまった時点で、勘の良いこの男であれば、川辺の時と同じ現象が起こったのだと容易に推測出来てしまうだろう。
言うなれば、自ら墓穴を掘ったようなものだったが、それでも凪は【見た】ものを自身の胸の内だけに留めておく事など出来なかった。

間近で覗き込まれた金色の眼を前に、凪は逡巡を見せる。
引き結んだ唇がほんの僅かに開き、やがて躊躇いに閉ざされた。
音にならないままで幾度か繰り返されたその様子に、光秀の眉根がほんの僅か、苦しげに寄せられる。

元来、暴く事は得意だ。
上手く誘導して、情報を引っ張り出し、それが真実か否かを見極める。それは光秀自身がずっとやって来た事だった。
だが、どんな形であれ【感情】が乗ってしまうと、己の持つ鋭い刃がこうして僅かばかりであっても鈍る事を初めて知る。

(鈍った刃であれ、力づくで押し切れば喉は裂ける。柄を握る指先が、そこから離れさえしなければ)

これは単なる好奇心ではない。
ここで凪の持つ何らかの秘密を暴かなければ、彼女は再び自分の知らぬ間に無茶を通す。手の及ばない事態が起きてしまう前に、手を打っておかなければならなかった。

凪の膝に置いた片腕、その指先へ微かに力を込めた光秀は、おもむろにそれを持ち上げると親指の腹で彼女の片頬をなぞる。輪郭を辿って下りていく指先の軌道に迷いはなく、冷たい男のそれが柔らかな凪の唇の端に触れたと同時、動きを止めた。

「…どうやら、俺に無理矢理口を割られる方をお望みらしい」

(突き付けた刃を、ここで引くわけにはいかない)

心の奥底とは裏腹に、ゆっくりと弧を描く唇で脅しを紡ぐ。
眇めた金色の眸を真っ直ぐに注げば、見開かれた彼女の零れんばかりの眼が揺れた。

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