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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第7章 摂津 参



腕を掴む男の指先にますます力が込められ、痛みに顔を顰めた凪は反対側から覗き込まれるようにして男が近付いて来ると同時、先程交わした佐助とのやり取りを思い起こす。

───いざという時に、役立ててくれ。

抱えた壺へ視線を僅かに落とし、二の腕を掴んだ男が更に凪の身体を引き寄せようと力を込めた瞬間、彼女は空いた片手で思い切り壺を男の顔面目掛けて力いっぱい投げ付けた。

がしゃん…!けたたましい音を響かせて壺が男の顔へと直撃し、そのまま割れると、壺の中身が炸裂する。

「ぎゃあ!!?」
「な、なんだ!!?」

情けない悲鳴と明らかに動揺した声とが同時に往来へ響いた。
からん、と乾いた音を立てて地面へ落ちたのは割れた壺の破片であり、その上から雫と共に紅く丸い粒が幾つも転がる。

(……やった!!)

見事な顔面ヒットに達成感を覚え、力の緩んだ男の腕を片手で払い落とすと同時、即座に凪は身を翻した。

「ま、待て…!ッ、なんだこれ酸っぱ…!?痛ェ!目が染みる…!!?」

(もしかしてあれって幻の梅干し!?)

背後で聞こえた幾つかの単語で中身に気付いた凪が目を見開くと、申し訳無さに内心で両手を合わせる。

(折角くれたのにごめん、佐助くん!梅干しも粗末にしてごめんね…!)

「ふざけやがって!捕まえろ!!」
「…!?」

梅干しの壺をぶつけられた男が逆上し、荒々しい声で叫んだ。
しばらく呆気にとられていた二人の牢人も我に返った様子で走り出し、凪の後を追う。草履と着物とが邪魔をして上手く走れないでいる彼女の手は再び男によって捕らえられ、無理矢理振り向かせられた。

「…っ、やだ…ッ」

ぐらりと男の方へ体勢を崩し、引き寄せられようとしたと同時、突如後方から腹部へ回された腕が凪を引き戻し、代わりに彼女を捕らえていた男の腕が、目の前を横切る何かによって横薙ぎに払われる。

ほとんど破裂音に近いそれが町の空気を裂いた。
薙ぎ払われた反動で地面に尻を付く形で倒れ込んだ男が顔を上げ、目を見開く。
それは凪も同じ事で、背に感じるぬくもりと鼻腔をくすぐる、もはや嗅ぎ慣れた薫物の香りに鼓動を跳ねさせ、必死に抑え込んでいた恐怖から来る身体の強張りを、ゆっくりと解いて言った。

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