第7章 摂津 参
先日会った時には、凪は強張った表情か不安そうな表情しかしていなかったと記憶していた小間物屋の男は、目の前で花が咲いたように笑う彼女に照れた様子を見せると、おずおずと視線を足元へ投げる。
「それじゃあ、すみませんがどうぞよろしくお願いします。私はもう少し別のところを探してみますね」
「あ、はい!お気を付けて…!」
少なくともこの通りで行き違いにはならないかもしれないと安心した凪は、丁寧に男へ礼を告げた後、早々に踵を返した。
別の通りを探すべく歩き出した凪の背が人混みに紛れて行くのを見送りながら、商売人の男はぽつりと呟きを落とす。
「なんだかこの間会った時とはあのお嬢さん、雰囲気が違ったなあ」
男の疑問に応える者が居ない往来で、ふと視界に映った光景に眉根を寄せた。身なりの粗野な男三人が、まるで凪の後を追うようにして同じように人の流れへ紛れて行く。
一瞬怪訝に顔を顰めた商売人だったが、いかんせん同じ方向へ進む者も多い大通りでさすがに考えすぎかと思考を振り払い、彼女が探している長身の男の姿が無いものかと、彼は視線を人の通りへ投げたのだった。
小間物屋がある通りから一本奥まった通りへ足を踏み入れた凪は、初めて通るその場所へ注意深く視線を巡らせる。
大通りよりも少し狭まった通りは、主に食事関係の店が多く軒を連ねていた。
酒蔵や茶屋、土産用の甘味処、焼き物屋など、あちらこちらから様々な香りが漂う中で、凪は必死に目立つ長身の銀髪を探す。
大通りよりは幾分人通りの少ないそこを迷わないよう気遣いながら歩いていた凪は、不意に道端に寄って歩みを止めた。
(……なんか、誰かに見られてたような気がしたんだけど…考え過ぎかな)
気配に過敏という程でもないが、何となくそんな気がしておもむろに背後を振り返ってみるも、特に異変などは感じられない。
気の所為であろうと自身を納得させ、正面を向き直ったと同時、この場で聞こえる筈のない声が鼓膜を打って彼女は驚きに目を見開いた。
「……凪さん?」
「え、佐助くん!?」