• テキストサイズ

❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第6章 摂津 弐



だが、凪はそれ等をすべて否定する。自らで考え、動いた結果であるのだから、光秀自身が後悔する事ではないと今も尚、怖じ気づく事なくはっきりと伝えて来ていた。

「私は大丈夫ですから」

黒曜石が月光を帯びて輝く。心の内を見透かすような瞳が緩慢に瞬かれ、そうして彼女が口元を微かに綻ばせる。
言葉がするりと心の隙間に入り込み、小さな熱を溶かしていった。
光秀はしばらく凪の眼差しをただ無言で受けていたが、やがて睫毛の影を落とし、口元に緩やかな弧を描く。

「…まったく、とんだ跳ねっ返りだな」

声色には少しの呆れと、それを覆ってしまう程の柔らかさがあった。低い音で紡がれた光秀の言葉を耳にし、一瞬虚を突かれた様子で目を瞬かせた凪だったが、すぐにわざとらしく眉根を寄せ、首を傾げてみせる。

「褒めてます?」
「当然だ。どうやらお前という娘を見くびっていたらしい」
「……小娘卒業ですか?」
「【その姿でいる時】は、そうだな」
「またそれ…!」

遊ぶように問いかけて来た凪に対し、光秀もおもむろに瞼を持ち上げては肩を竦めた。
むっとした様子で眉間の皺を深めるも、凪の噛み付く色は普段より幾分か薄い。
先程までの少しばかり重い空気が自然と霧散して行くのを感じながら、凪は内心でそっと安堵の息を漏らした。
いずれにせよ引き止める形となってしまった為、そろそろ歩き出そうと彼女が掴んでいた光秀の羽織の裾から指を離そうとした刹那、振り向きざまに片手でそれを握り込んだ光秀の大きな手のひらが腕ごと彼女の身体を引き寄せる。

「わっ!」

腰に腕を回され、身体をぐいと光秀へ近付ける形になった凪が驚いた様子で顔を上げた。
一度掴んで引き寄せた華奢な手を解放し、そのまま流れるよう所作で凪の頬へ指先を這わせると、親指の腹で頬を撫ぜる。
凪自身はまったく意識していなかったが、光秀が指を這わせた箇所は、清秀が二度撫ぜたそこと同じ場所であった。

「急になに…っ」

慈しむような、しかし何かの残滓を拭い去るような親指の動きに戸惑い、問いかけようとした凪の言葉は最後まで音にならない。
真っ直ぐに自らを見下ろす光秀の表情が、男の後ろから射し込んで来る月明かりによって影を作る。

/ 903ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp