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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第6章 摂津 弐



足裏を擦るようにして即座に間合いを詰め、凪の身体を自らの背へ押し隠した光秀の、伸ばされた右手、その先に握られた閉ざしたままの扇子の先が男の喉元へ突き付けられている。
腕を差し入れていた袖口の中に仕込んでいた鉄扇の鋭利な先端が、薄皮一枚分の僅かな距離を残して急所を差している様を前に、凪が零れんばかりに眼を見開いた。

木々を揺らす風が葉の擦れる音を響かせ、張り詰めた糸のように剣呑な気配が光秀と男、二人の間に満ちる。
互いに色素の薄い髪が揺れ、交わした視線がぶつかり合った。
光秀の行動に驚いた様子もなく、間合いから退こうとしない男は、自らを射抜く金色の瞳に鋭い刃のようなものを見て、口元を緩やかに笑ませる。

「おかしいな、光秀殿は姫君に心を寄せていないんだろう?どうしてそんなに怒っているんだい」
「…怒る?馬鹿を言え。女に情けなく袖にされた貴殿の余興を眺めるのも、見飽きたまで」

淡々とした光秀の口調に、隠しもしない嘲りの色が滲んだ。
好戦的に三日月の形を描く口元をそのままに、光秀は男の喉元を差した扇子をそのままの位置で器用に開き、腕を引き戻しては自らの口元を隠すようあてがう。

「相変わらず痛いところを抉ってくるね、光秀殿。…まあ今はそういう事にしておくとするよ」

何もかもを最初から見透かしているような様子で肩を竦めた男は、不意に思いついた様子で光秀の肩越しに佇む凪へ視線を向けた。
先程とは異なり、彼女本人へ明らかな興味を露わにした男に対し、光秀の眉根が僅かに顰められる。

「…そうだ姫君、君を怒らせてしまったお詫びに、君が訊きたい事を一つだけ何でも答えてあげる。それで先程の件は許してくれるかい?」

名案だと言わんばかりの、ご機嫌窺いを兼ねた男の柔らかな声色を耳にして唇を引き結んだ凪であったが、先刻までの二人のやり取りを思い起こした彼女は憮然とした面持ちのまま、口を開いた。

「……さっきの事は許しませんけど、質問には答えて欲しいです」
「正直で良いね、姫は。…いいよ、言ってごらん」
「あの蔵の中身はなんですか?見せなくてもいいので、中身を教えてください」

光秀が確認したかったのは、男の背後にある蔵の中身であった。

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