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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第6章 摂津 弐



口を閉ざしたままでいる光秀の隣を歩きながら、凪は中途半端なままであった思考を再び手繰り寄せ、これまでの光秀の言動を思い起こしていた。
しかし、不意に鼻腔をかすめた不快なそれが唐突に強まったのを感じ、一度思考を放り投げると袖口を鼻へ慌ててあてがう。

「光秀さん」
「…ああ、どうやら亡霊の正体を暴く鍵に近付いて来たようだな」

袖口をあてている為、幾分くぐもった声のまま隣の相手を見上げると、光秀は油断のない眼差しを暗い森の奥へ凝らし、そうして口角をゆるりと持ち上げた。
暗闇の中、よく目を凝らせば森の奥に小さな灯りがぽつりと不自然に灯っている。
現代ではないこの場所で灯りが灯っているとすれば松明の類いに間違いはなく、篝火とまでは言えない控えめな光源が仄かな存在感を主張していた。

警戒を増した様子の光秀が凪を自身の背に庇う。隣ではなく、半歩後ろを進むような形にした彼はそのまま木々の影を縫って灯りのあるその場所へと距離を縮めた。
やがて、光秀の背を追いながらますます濃くなる臭いに顔を顰め、凪が顔を俯かせたと同時、唐突に足を止めた男の背に軽く額をぶつけて驚いた様子で顔を上げる。

「あの…、」

どうかしたんですか、という凪の疑問はすべてが音になる前に解消された。
顔を上げたと同時に光秀の肩越しから見えたものに、小さく息を呑む。木々が連なった樹木の隙間から覗き見えたそれへ、男の眼が静かに眇められた。

「三年前には無かったものだ。建物の様子から見て、最近造られたんだろう」
「あれって蔵…ですよね?あっちの方、凄く臭いがきつい…」

木々に身を隠す二人の前に現れたのは、入り口付近に気持ちばかりの光源代わりとして差し込まれていた松明と、それによって闇の中、薄っすらとした灯りの元で佇んでいる大きな蔵だった。
二階建てと思わしき建造物の正面には左右で手前へ開く形の堅牢な扉が設置されていて、その取っ手部分には厳重さを窺わせる大きな錠前が掛けられている。
周囲の木々は背が高く、生い茂る緑の葉が高さのある建物を上手い具合に隠していた。

「臭いの元はあの蔵で十中八九間違いない。見たところ見張りは居ないようだ。……まるで怪しんでくれと言わんばかりだな」
「鍵が掛かってるから安心、って話ではないですよね」

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