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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第6章 摂津 弐



「何が亡霊だ!ンな眉唾話、信じてる奴の気が知れねえ!最近じゃ皆同じような話ばかりしやがって…!」

だん、と畳を踏み鳴らして立ち上がった粗野な言葉遣いの男は、一振りの太刀を身に付けていた。特別高価とも言えないだろう着流し姿に対し、異様な存在感を放つそれを見咎めた光秀の眼が鋭くなる。
隣の二人組は突然の事に驚き、震えた様子で後退った。
その様子をまるで嘲るかのごとく鼻で笑い飛ばし、懐から勘定分の銅銭を叩き付けるように置くと、向かい側へ座していた男を伴って、荒々しい足取りで座敷を下りる。

草履を引っ掛け、光秀と凪の傍を通り過ぎた二人組から思わずさっと視線を逸らした彼女は、ふと感じた違和感に弾かれた様子で顔を上げた。

(…これって!)

彼女の表情を正面から捉え、何事かを察した光秀が袂から本来の勘定代よりも多めの額を机の上へ置き、立ち上がる。
男達はそのまま店の外へ出て行き、流した視線でそれを認めた光秀が凪へ声をかけた。

「…行くぞ」
「は、はい!」

慌てて立ち上がった凪が隣へやって来ると、自然な仕草で彼女の手を握り、光秀は女将へ一言礼を述べた後で甘味処を後にする。

暖簾を潜れば、ちょうど先程の男二人が大通りを挟んだ向こう側、店や家屋が並ぶ合間にある路地裏へと姿を消そうとしているところだった。
光秀は一瞬眉根を寄せ、さっと辺りへ視線を巡らせれば、先日色々と噂話を聞かせてくれた小間物屋の存在を見つけ、繋いでいた手を離すと凪へ真摯な眼差しを向ける。

「少しの間離れる。お前は昨日の小間物屋の前で大人しく待っていろ」
「待ってください!後を追うなら一緒に行きます。途中で見失っても、多分追えると思います」

路地裏の向こうでは何が起こるか分からない。
とはいえ、ここで凪を一人にする事を案じた光秀の予想を裏切り、彼女は自ら一緒に後を追うと言ってのけた。
真剣な様子で見上げて来る相手の眼差しを一度真っ直ぐに覗き込み、凪の言葉の意図を察した光秀は小さく頷く。

「……いいだろう。だが危険になれば迷わず逃げろ。…いいな?」
「わかりました」
「良い子だ」

しっかりと首を縦に振った凪を見据え、ひとときだけ離した彼女の小さな手を再び握り、二人は男達を追って路地裏へ向かうべく足を踏み出した。

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