第6章 摂津 弐
光秀は光秀なりのやり方で解決の糸口を探ろうとしている。
遊んでいるように見えて、存外抜け目のないこの男の考えている事がすべて理解出来ているわけではないが、それだけははっきりと確信していた。
(まあここまでするのは設定上って事で摂津に居る間だけだろうし、やるからにはなんとかやり通さないとね)
もう少し頑張ってこの過剰な情人の振りを我慢しようと改めて心に決めた凪の横顔を、視線を流すようにして眺めていた光秀は、ふと目に入った一軒の店前で歩みを止める。
「少し休んでいくか」
「あ、はい」
光秀に倣うようにして足を止めた凪は、彼が視線で指した方向へ首を巡らせると目を瞬かせた。
そこにあったのはやや大きめな佇まいの甘味処である。
藍色の暖簾が風に揺られており、その中は複数の客で賑わいをみせていた。
表には赤い敷布が敷かれた長椅子が入り口を挟むようにして二台あり、店内は奥の方に座敷席が数席、その手前には木製の机と椅子変わりの樽に簡易的な座布団が敷かれている、現代でいうところのテーブル席が数席設置されている。
「…光秀さんと甘味処って、ちょっと違和感ありますね」
「そうか?だが俺とて甘味はともかく、茶を飲みに立ち寄る事くらいはある」
「ふうん?」
そんな会話を交わしながら暖簾をくぐった光秀に続き、凪も足を踏み入れると、茶葉の香りや甘い蜜の香りが鼻腔をかすめる。やがて、女将と思わしき女性が愛想の良い笑顔と共に声をかけて来た。
「いらっしゃい!…おやおや、仲が良いお二人さんだね。お好きな席へどうぞ」
どこか微笑ましそうな女将の発言で、いまだ手を繋いだままであった事を思い出した凪は咄嗟に手を離そうとする。しかし、それよりも早く動いた光秀がぐっと軽く彼女の手を引いた。一瞬だけ眇めた冷たい眼差しを座敷の方へ流した彼は、すぐにその色を消し去ると何事もなかったように腕を引いて店の端、座敷席に近い席へ歩いて行く。
座敷席と通常席は間に太めの柱が四本建てられており、行き来出来るよう中央を開けた状態で、左右それぞれに縦の格子状の飾りが作られていた。壁側と机を挟んでその正面へ向かい合うような形に置かれた樽椅子の、壁側の方へと凪をいざなった光秀は、そのまま彼女の正面へ腰をかける。