• テキストサイズ

❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第6章 摂津 弐



「ほう?膨れた頬が戻って何を言い出すかと思えば、そんな事か」

凪の言葉の意味を察したのだろう。色々と観察眼の鋭い彼が、周囲の視線に気付いていない筈がない。
片眉を軽く持ち上げてみせた光秀は、さして気にした様子もなく鷹揚に応えてみせた。

「………だが、お前も人の事は言えないと思うがな」
「え?」

不意に小さく口内でそれを零した光秀は、一度繋いでいた手を離し、そのまま流れるような所作で左腕を持ち上げると隣に居る凪の肩を抱き寄せる。
そうして昨日と同じように肌から離した衿合わせの所為で、無防備に覗いている彼女の白い項や後ろ首へ注がれていた視線から守るべく、そこへ唇を寄せる振りをした。

「ちょっ!?急になに…っ」

驚きに声を上げる凪を無視し、口元へ緩やかに貼り付けた弧をそのままにして、俯き加減で眇めた金色の眼だけをぐるりと巡らせては、不埒な男達の視線を一掃する。
きゃあ、と娘たちの色めいた悲鳴が短く上がる中、何食わぬ顔で離れた光秀は、肩に回した腕を解いて自然と凪の手を握った。

「なんなんですか!人前っていうのわかってます!?」
「今更人前で触れ合う事を恥じらうような仲ではないだろう?芙蓉」

(設定上ではね…!)

光秀の行動の真意や、自身へ色めき立った視線を向けられていた事など気付いていない凪は、さすがにここまでやらなくても、という文句をなんとか必死で呑み込む。
そうして何食わぬ顔で、しかしどこか満足げにも見える男の横顔を軽くねめつけていた凪は、やがて設定だから仕方ないと半ば諦め、内心で溜息を漏らした。

(…本当に読めない。てかいくらそういう関係の設定だからって、さすがにスキンシップ過多すぎなんじゃ…!?この時代ってそれともこれくらいが普通なの?)

こんな事になるなら、フィクションかノンフィクションかはさておき、時代劇系のドラマなどでも観ておくべきだったと考えたが、もはや後の祭りである。

(……でも、こんな風にしててもこの人は裏切り者っていう泥を自分で被って、この国の異変をどうにかしようとしてるんだよね)

/ 903ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp