第5章 摂津 壱
店主の説明を耳にしながら、興味の湧いた凪も盆の上へ視線を向けた。蓬と万年青の他に何が混ざっているのか、ついいつもの薬草好きが反応してしまい、茶葉を見つめる。
そんな彼女の様子を視界の端に捉え、扇子を手に取りそれを広げたままで静かに見守っていた光秀の視線には気付く事のなかった凪が、店主が和紙を持ち上げた瞬間、何かに気付いて半ば反射的に声を上げた。
「待ってください…!」
刹那、凪を捉えていた金色の眼を眇めた光秀の口角が、口元にあてがった扇子の影でゆるりと持ち上がる。
「ッ!?…ど、どうなさいましたか!?」
「その茶葉、少し見せて頂いてもよろしいですか?」
驚きに和紙を取り落としそうになりながら肩を跳ねさせた店主を他所に、凪は両手を差し出して茶葉を求める。
果たして何が起こったのか理解できないまま、店主が小さく頷くと彼女の掌に和紙ごとそれを手渡した。
「芙蓉殿、一体どうなされた?」
八千が怪訝に眉根をひそめ、不審感を露わに問いかける。
手の中に置かれた茶葉をしばし見つめていた凪は、やがて微かに目を瞠った後、零さないように畳の上へ和紙を置いた。
緑の葉が大雑把に刻まれたその中から、一枚の葉の欠片を指先でつまんだ彼女は、それを自身の掌へ乗せる。
「これはクサノオウという薬草で、一般的には毒草として知られています。薬草でも使えるんですが…毒性が強いので使い方が難しいんです。蓬とも間違えやすくて、体内に入れると内蔵…えーと…つまり身体の中がただれて最悪の場合、死にます」
「な…っ!?」
「そんな…!?」
凪の言葉を耳にし、店主と八千の声が重なった。
狼狽する八千を前に、ふと厳しい眼差しを店主へ向けた光秀は相変わらず口元を扇子で覆ったまま、真摯な声を漏らす。
「店主、その奉公人とやらは今どこに?」
まったく身に覚えがなく、むしろとばっちりを食らった店主は見る見るうちに顔を青くして唇を震わせ、身を平伏させた。
「そ、それがつい半刻前、国に残した母親の具合が悪くなったと便りを受け、店を出て行きまして…!」
「なんだと!?よもやこの私を狙い、かような茶番を仕組んだというのか…!」