第6章 魚人と人間
花子 side
「花子〜…飯だぞぉ。」
「…ありがとう、ハチ。」
私が牢屋に閉じ込められて1日が経つ。食事を持ってきてくれたハチは、アーロンによって腫れ上がった私の顔を見つめ眉を下げる。
「ユラは…どうしてるの?」
「今はアーロンさんと一緒にいる。…お前に会えなくて元気はねぇがな。」
お茶碗によそわれたお粥をスプーンで掬い、ハチはそれを私の口元に持っていく。人に食べさせて貰うなんて何年振りだろうと思いながら、それに口を付けゆっくりと咀嚼する。
「ごめんなぁ…俺、何も出来なくて…。」
「ハチが謝る事じゃないわ…。」
元はと言えば魚人に酷い事をした人間が悪いんだもの…。今にも泣き出しそうなハチに微笑みかけると更に顔をくしゃっと顰める。
「アーロンさんも辛いんだ…あの人は…大事な人を人間に殺された…。」
「…フィッシャー・タイガー。」
「?!お前っ、知ってっ…?!」
彼の名前を出した私をハチは驚愕し狼狽えている。彼に何が起こったが知っていると話す私にハチは悲しそうに顔を俯かせ口を開く。
「人間に復讐しようとしたアーロンさんは海軍に捕まりインペリアルダウンに投獄された。アーロンさんを解放するのを条件にジンベエ親分は王下七武海になったんだ…。」
大切な人を奪った海軍に加担するなんて屈辱だっただろう…。でも、情に厚い彼だからアーロンを見捨てる事が出来なかったのね。
「ジンベエ親分が王下七武海に加盟した事を知りアーロンさんは怒り狂った…。政府の…タイガーさんを死に追いやった奴等の狗になったのかと…。」
きっとジンベエはフィッシャー・タイガーの遺志を継いで人間と魚人の協調を取る事に決めたのね。でも、人間への怒りを拭い切れなかったアーロンはハチ達を連れタイヨウの海賊団を抜けた。
「俺だって人間は苦手だ…。でも、人間にも優しい奴や良い奴がいる事も分かってる…。」
「ハチ…。」
「なぁ…花子…。アーロンさんを嫌わないでやってくれ…!あの人…本当はずっと人間の世界に憧れてたんだ…!」
ー俺の目を見ろ。ー
私を見つめる時、アーロンは決まってそう言っていた。そんな彼の瞳の奥には怖がるな、嫌わないでくれと縋っている様に見えた。