第6章 魚人と人間
アーロン side
「…気を失ったか。」
怒りに任せ花子を殴り続けた俺をクロオビが止めた。気を失いぐったりと力無く項垂れる花子を見つめ胸が苦しくなる。
(何故だ…何故こんなにも胸が痛むんだ…。)
人間は皆同じだ。あの汚ぇゴミ虫と同じこいつも俺達魚人を蔑んでいる。
ー泣かないで…。ー
「くそっ…!」
分かっているっ…!こいつはあの野郎とは違う!蔑むでも憐れむでも無く、俺達を見つめる花子の瞳は優しく…温かい…。
「アーロンさん…。」
「…傷の手当てをしておけ。」
いっそお前が…あの野郎と同じだったら良かったのによ…。
ーーーーーー
「ユラはいるか。」
「アーロン!」
プールサイドでハチ達と遊んでいたユラが顔を破顔させ俺に駆け寄ってきた。勢い良く飛び付いてきたその小さな身体を抱き上げると不思議と荒んだ心が穏やかになる様に感じる。
「おかあさんは?お話終わった?」
「あいつには会えねぇ。お前は俺達とここで暮らすんだ。」
意味が分かってねぇのかユラは大きな瑠璃色の瞳を丸くさせ首を傾げる。俺の言葉にハチ達はぐっと唇を噛み顔を俯かせる。
「おかあさん…どこにいるの…?」
「あいつの事は忘れろ。」
「アーロンさん…。」
思わず口を開こうとするハチを目で制す。俺の言葉にユラは目を大きく見開いた後、その瞳に涙を浮かべボロボロと泣き出した。
「やだっ…!おかあさんにあいたいっ…!」
花子に会いたい、側にいたいと泣きじゃくるユラを見ていると胸が苦しくなる。これも…【ユラヒメ】の力なのか…?
「今は会えねぇがお前が…良い子にしていたら会えるかもしれねぇな。」
「ほんとっ…?おかあさん、もどってきてくれる…?」
優しく語りかけると涙を拭い大きく頷くユラの頭を撫でる。そうだ…花子がいなくても俺達には【ユラヒメ】がいるじゃねぇか。
「同胞達よ!我等が姫を歓迎しようじゃねぇか!」
俺の声に同胞達は歓喜の雄叫びを上げる。これでいい…。【ユラヒメ】が手に入ればあの女には用はねぇ。だが、ふと頭に浮かぶのは先程の悲しそうな花子の顔。
(止めろ…!出てくるなっ!)
人間は憎むべき存在だ。それは今も、これからも変わらねぇ。俺は言い様のない喪失感を感じるもそれに気付かぬ振りをした。