第6章 魚人と人間
「そう言やぁ…ここには女と餓鬼がいたな…。」
暗く冷たい牢屋に張り付けにされた男はニヤリと笑みを浮かべアーロンを見据える。男は突然、アーロンパークに乗り込んで来たのだが、彼等に敵う筈もなく捕まってしまった。
「魚人風情が人間様の真似事か?身の程を知れっ…!」
「てめっ…!」
拷問を受けボロボロになりながらも男の吐き捨てる言葉に怒りを露わにし一歩前に出るクロオビをアーロンが手で制す。
「俺はなぁ…お前の事を知ってるぜ…元海軍だったからな。」
「…何が言いてぇ。」
「まだ新兵だった俺は…少将に付いて任務に出た。…とある島にノコノコ現れた馬鹿な魚人を殺す簡単な仕事だったっ…!」
命が惜しく無いのか男はアーロン達を蔑む様に罵倒を浴びせる。任務で傷を負った男は海軍を辞めざるを得なり自分の人生を狂わせた魚人に復讐してやると。
「何が奴隷解放だっ!何が英雄だっ!お前等魚人は人間様に媚びへつらい命乞いをするのがっ…!」
憎しみの籠もった瞳でアーロンを睨み付ける男の言葉が止まり支えを失った様にダラリと力無く身体が垂れる。しかし、アーロンの手が止む事は無く男の首を刎ねたキリバチで何度も男の身体を斬り付けた。
「アーロンさん!もう止めろっ!」
「離せ、ハチ!このゴミ虫、生かしちゃおけねぇ!」
「もう死んでる!これ以上は必要ねぇっ!」
怒り狂いキリバチを振るうアーロンをハチが止める。既に肉塊となった男を憎しみの籠もった瞳で睨み付け静かに口を開いた。
「…花子とユラを呼べ。」
「アーロンさんっ…!あんた、まさかっ…!?」
「早くしろっ!」
「止めてくれっ!2人には関係ねぇっ!」
アーロンの怒号が辺りに響き渡る。必死に懇願するハチの声も憎しみに支配された彼の耳には届いていない。
「あんた…絶対後悔するよ…アーロンさん…!」
「…うるせぇ。」
人間は憎むべき存在。自分達より遥かに劣る下等な種族。
ーアーロン。ー
(…何も聞こえねぇよ。)
しかし、柔らかく微笑む花子の顔を思い浮かべると胸が苦しくなる。ギリッと歯を食い縛り顔を歪めたアーロンは何も言わず牢屋を出て行った。