第6章 魚人と人間
アーロンに抱き締められ花子は戸惑い身動ぐ。しかし、身体に絡みつく逞しい腕は彼女をしっかり掴まえて離す事は無かった。
「ちょっと!アーロン!」
「…。」
声を上げるも彼は起きる気配は無く寝ぼけているのかと花子はどうするか悩んでいたが。
「…あなた、起きてるでしょ。」
「シャハハッ、気付いてたか。」
可笑しそうに喉を鳴らせ目を開けたアーロンに花子は呆れた表情を浮かべ腰に絡み付いている腕をペチリと叩いた。
「ふざけるのは止めて。」
「つれねぇなぁ。」
腕を退け起き上がる自分を見つめるアーロンに今月分の金を持って来たと伝えると、彼は満足そうに口元を緩ませる。
「今回は随分と遅かったな。」
「帰って来る途中で海賊に絡まれたの。」
疲れた様に溜め息を漏らす自分の頬に手を添えじっと見つめるアーロンの視線に花子は居心地が悪そうに目を逸し立ち上がった。
「…それじゃあ、私は行くわ。」
「もう帰るのか?」
折角だからゆっくりしていけと引き止めるアーロンに花子は困った顔をする。何も言わずドアノブに手をかけた彼女にアーロンは口を開いた。
「花子…お前、俺の仲間にならねぇか?」
「…。」
「お前は人間にしておくのは惜しい人材だ。俺の仲間になれば何でも手に入るぞ。」
「…あなたがこの村から手を引いてくれるなら考えてあげてもいいわ。」
真っ直ぐ自分を見つめる花子の視線にアーロンはくっと喉を鳴らし笑みを浮かべる。花子はもう1度溜め息を吐くと静かに部屋を出て行った。
「はぁ…。」
花子は閉めた扉に背中を預け天を仰ぎ先程のアーロンの顔を思い出す。
「どうしろって言うのよ…。」
甘く優しい彼の瞳。花子はアーロンが他とは違う目で自分を見つめている事に気付いていた。人間嫌いな彼がそんな事をあるわけないと思いながらも、もしかしたら人間に歩み寄ろうとしているのではないかと期待してしまう。
「…貴方に出会って…私はすっかり変わってしまったわ。」
忍として生きていた自分に感情などいらない。只ひたすら任務を遂行するだけ。しかし、ロジャーと出会って随分人間らしくなったものだと花子は寂しそうな笑みを浮かべた。