第6章 魚人と人間
「今、戻ったわ。」
「おかあさん!おかえりなさい!」
「よぉ、花子。アーロンさんなら部屋にいるぜ。」
いつもの様に麻袋を抱えた花子を見かけ、ユラは嬉しそうに彼女に駆け寄りアーロン一味の者も笑顔で迎える。
「今日はね、クロオビにギョジンカラテ教えてもらったの!」
「あら、良かったわね。」
「ユラは中々筋がいいぞ。」
大きな手で撫でられ褒められたユラは得意げに胸を張る。そんな彼女の姿に一味の者も微笑ましそうに眺めていた。
(随分と慣れたものね…。)
人間嫌いな彼等も初めは花子やユラの事を邪険に扱っていた。しかし、関わっていく内に彼等との距離が少しずつではあるが埋まっていく様に花子は感じていた。
「私はアーロンの所にこれを渡しに行ってくるから、もう少しだけユラをお願い出来るかしら?」
「任せておけ。」
「ユラ〜!たこ焼き食うかぁ〜?」
「食う〜!」
「ユラ!食べる、でしょ!」
最近、彼等の言葉遣いを真似しているのかユラの口調が男っぽくなってきている。女の子なのだからと苦笑いを浮かべ花子はアーロンがいる部屋へと向かった。
ーーーーーー
「アーロン、私よ。今、戻ったわ。」
アーロンの部屋の前まで来た花子は扉をノックし声をかけた。しかし、中から返事は無くもう1度声をかけ部屋の中に入る。
「アーロン?」
「…。」
堂々と鎮座している大きなベッドに大の字で寝そべっているアーロンに声をかけるも返事はない。麻袋を扉の近くに置き近付いてみると、どうやら彼は眠っている様だ。
「…。」
眠っている彼の姿をじっと見つめるが起きる気配は無い。青い肌、ノコギリの様に長い鼻。姿形は違えど自分と何ら変わらない。
(あなたが憎しみに囚われる事を彼は望んでいたのかしら…。)
人間を愛せないと言ったフィッシャー・タイガー。しかし、自分に起きた悲劇を誰にも伝えるなと言った彼は本当に心から人間を憎んでいたのだろうか…。
「?!」
起こすのは可哀想だとこのまま立ち去ろうとした花子の腕が引かれアーロンが眠るベッドに引き摺り込まれた。
「ちょっ、アーロン?!」
「…。」
突然の彼の行動に驚き身動ぐ花子の身体を何も言わずアーロンは強く抱き締めていた。