第5章 ココヤシ村
ナミ side
何よっ…!結局、口だけじゃないっ!この女もアーロンが怖くて何も出来ず、あいつに媚を売るしかできないじゃないっ!
(でも…それは私も同じ…。)
この女に期待したわけじゃないけど、この村を好きだと言ってくれて嬉しかった。もしかしたら、私に協力してくれるんじゃないかって…。
「ねぇ…ナミちゃんには夢がある?」
「…何であんたにそんな事を言わなくちゃいけないのよ。」
「私にはあるの。」
「ねぇ聞いてんの?!」
私に構う事無く花子は自分の夢を語り出した。いつか海に出てユラに色んな世界を見せてあげたいって…そう話す彼女の顔は凄く穏やかだった。
「…だったら、ここから逃げればいいじゃない。」
「それは無理かな。」
「何でよ!」
あんたは外に出る事を許されている。だったら娘を連れて何処へでも逃げればいいじゃないっ!
「だって…私がここから逃げればナミちゃん達はどうなるの?皆を見捨てて私だけ助かる何て事出来ないわ。」
「っ!あんたにっ…あんたに何が分かるのよっ!?」
皆がどんな思いで今まで耐えてきたかっ!大切な人を奪われ明日をも知れぬ命に恐怖に怯えながら暮らしている皆の気持ちをっ!
「気休めの優しさなんていらないっ!あんたもどうせいつか逃げ出すわっ!」
そうよっ!誰も助けてくれないっ!私がやるしかないんだ!どうしようも無い遣る瀬無さに声を荒げる私の頭に柔らかな重みが乗る。
「ナミちゃんは強い子ね。」
「何してっ!」
「ずっと1人で耐えてきたんでしょ?誰にも助けを求めずに。」
優しく頭を撫でる手を何故か振り払う事が出来なかった。その温もりが…優しく穏やかな笑顔がベルメールさんと重なったから…。
「ねぇナミちゃん、助けて欲しかったら助けてって言って良いのよ?」
「そんなの出来る訳っ…!」
「少しは誰かを頼っても良いのよ。私は絶対にナミちゃん達を見捨てたりしないわ。」
本当は助けてほしい…傷付く皆をこれ以上見たくない。真っ直ぐに私を見つめる花子の瞳に弱音を吐きたくなった。
「ナミちゃんの荷物を私にも背負わせて?」
でも…素直にそう言えないのは…私が弱いから…。