第5章 ココヤシ村
無我夢中で走るナミが辿り着いたのは海が見える岬。その先には十字架が掲げられており誰かの墓の様だ。墓の前まで来たナミはその場に力無く崩れ落ちきゅっと唇を噛んだ。
「ベルメールさん…。」
ポツリと呟かれた名前の人物は6年前、アーロンがこの村を侵略した時に見せしめとして殺されたナミとノジコの育ての母。
「私は…どいうしたらいいのかな…?」
アーロンの仲間だと思っていた花子が村人達の為に金を工面していた。知らなかったとは言え彼女に酷い態度を取ってしまった事に罪悪感が募る。
(助けて…。)
この村を救う為に親の仇であるアーロンの仲間になった。しかし、貯めている金は村を買う為の金額にはまだ程遠く不安と寂しさに押し潰されそうになっていた。
「ナミちゃん…?」
「?!」
不意に声をかけられ後ろを振り返るとキョトンとした様な顔の花子がいた。先程の事もあり気まずそうな表情を浮かべるナミに花子は困った様に眉を下げ、ゆっくりと近付いて行く。
「何してるの?こんな夜更けに。」
「…あんたには関係無いでしょ。」
突き放す様なナミの口調にそれもそうかと頷き彼女の隣に腰を下ろし海を眺めた。
「…ナミちゃんはこの村が好き?」
「…。」
「私はね…この村の人達が大好きよ。まだ少ししか経ってないけど、素性も分からない私達を皆温かく迎え入れてくれたの。」
何も答えない自分に対し独り言の様に今までの事を話す花子にナミは言い様のない苛立ちを感じていた。
「私はね…この村を救いたい。」
「っ!」
「今はまだ無理かもしれないけど…いつか村の人達が笑って暮らせる様にしたい。」
穏やかに微笑む花子にナミは目を見開いた。何故、何も関係の無い彼女がそこまで思うのか…。しかし…。
「だったら…だったら何で助けを呼んでくれないのっ…!?」
「…。」
「ノジコから聞いたわっ!あんた、外に出る事を許されてるんでしょ!じゃあ、なんで何もしないのよっ!?」
ナミの言い分にも一理あるが花子の目的は海軍とアーロンが癒着している証拠を掴む事。それに花子がアーロンを倒した所で村を管理する海軍を変えないとまた同じ事が起きてしまう。
「…ごめんね。」
力無く呟く花子にナミは顔を歪めキッと睨み付けた。