第5章 ココヤシ村
花子 side
思った以上にアーロン達の人間に対する憎しみは深い様ね…。私はココヤシ村に来る前に教えて貰ったキンジの話を思い出す。
ー花子はん、ジンベエって覚えとる?ー
ーあら、懐かしい名前ね。彼は元気?ー
ーおん、元気やで。今はタイヨウの海賊団っちゅう海賊の船長で何と、あの王下七武海の1人や!ー
彼と出会ったのはロジャーと"魚人島"に行った時。あの時はネプチューン軍の兵士だったのに、まさか海賊になるとは思わなかった。
ー…花子はんは知っとると思うけど、魚人族と人間との間の溝は深い。ー
彼が船長を務めるタイヨウの海賊団は元々、フィッシャー・タイガーと言う冒険家が結成したもの。その海賊団にアーロンや彼の一味も加入していたらしい。
ーある時、タイヨウの海賊団は1人の少女を故郷に送り届ける事を頼まれたんや。ー
勿論、反対する人もいたけどフィッシャー・タイガーはその任を引き受けた。無事、故郷まで少女を送り届けた彼を待っていたのは魚人を恐れた島民達の裏切りだった。
ー瀕死の状態で運び込まれたフィッシャー・タイガーには輸血が必要やった。ー
彼を治療した場所は海軍から強奪した軍艦。周りに彼と同じ血液型の者はおらず、輸血パックは全て人間の物…。
【入れるな!そんな血で生き永らえたくはねぇっ…!】
彼は輸血を拒んだ。人間には優しい者もいると知りながらもどうしても恨みが消えず身体が拒絶すると…。
ー何で"タイヨウ"の海賊団っちゅう名前になったと思う?ー
彼はかつて天竜人の奴隷だった。"マリージョア"から解放した元奴隷達の烙印を消す為、構成員全員にタイヨウのシンボルを刻んだ。
【俺はっもうっ…人間を…愛せねぇっ…!】
死ぬ間際に彼はそう言ったらしい。輸血を拒む程、人間を憎んでいる筈なのに…魚人と人間の和平を願った彼は自分に起きた悲劇を"魚人島"には伝えるなと涙ながらに言った。
「魚人と人間の和平…か…。」
彼の思いとは裏腹に大切な人を奪われたアーロン達は更に人間を憎む様になってしまった。
「なかなか思い通りにはいかないものね…。」
私もあの人を奪った世界が憎かった…。でも、私が憎しみに囚われる事を貴方はきっと望んでいないわね…。