第4章 瑠璃色の瞳の少女
花子が横たわる遺体を観察していると近くに何か彫った様な跡があった。マッチに火を着け中を照らし見えてきたのは、この遺体が生前残した文字。
【この子の名前はユラ。私の大事な宝物。】
「ユラ?」
「う?」
壁に書かれている名前を花子が口にすると子供は返事をするかの様に彼女を見上げた。
【やっと授かった可愛い子。なのに、龍神様の生贄となってしまう。】
人身御供。最も重要と考えられる人身を供物として捧げる事は、神への最上級の奉仕だという考え方から、古くから人間を神の生贄とする地域がある事も少なくない。
【瑠璃色の瞳の女児は龍神様に愛された子。でも、この子が3つになった時、龍神様に返さなければならない。】
【ごめんね、ユラ。私が貴女をこんな目に産んでしまったせいで…。貴女に人並みの幸せを与えてあげられ無い私を許して…。】
きっとこの遺体はユラの母親なのだろう。生まれた瑠璃色の瞳の赤子と一緒に母親もこの祠に閉じ込められていたのだろう。
【この子が乳を飲まなくなったら私は用済み…。でも、私はこの子と最後まで一緒にいたかった。】
赤子が乳を飲まなくなったら後はユラが3つになるまで食事を与えれば済む事。母親はまた元の生活に戻れる筈なのに、彼女はそうしなかった。例え飢え死にしようとも最後まで我が子と一緒にいたかったのだろう。
【もう身体が動かない…この子を抱き締めてあげる事も出来ない。】
壁を彫る力も残っていなかったのだろう。最後は自分の血で書き記されていた。
【お願い…誰か…この子をたすけて…。】
壁に記されている文字はそれで最後だった。生まれた時から運命を決められていたユラ。花子は何処かこの少女を自分と重ねてしまった。
「ねぇ、ユラ。ここから出たい?」
「う?」
言葉の意味が分からないのかユラは不思議そうな顔で花子を見上げる。吸い込まれそうな程澄んだ綺麗な深い青。その瞳を見つめ花子はそっとユラに両手を広げ微笑んだ。
「私と…一緒においで。」
「っ…あぃっ!」
広げられた花子の胸にユラは飛び込んだ。力を入れてしまえば折れてしまいそうな細い身体を、花子は優しく包み込んだ。