第1章 処刑の日
広場から姿を消した花子は少し離れた岬の上から海を眺めていた。何処までも続く広い海。彼が愛した海。
「ロジャー…。」
ポツリと愛しい名前を呟く。何度名前を呼ぼうと…彼はもう…。
「花子さんっ!」
「…シャンクス。」
後ろを振り返れば麦わら帽子を被った赤髪の少年が息を切らしながら花子に駆け寄る。
「早くっここを出よう!今ならまだあいつ等にも見付からない!」
必死にしがみ付くシャンクスに花子は穏やかな微笑みを浮かべると静かに首を横に振る。
「何でっ…!?」
「ロジャーは…もういない…。あの人は…私にとって全てだった…。」
「俺がっ…俺がロジャー船長の分まで守るからっ!俺がっずっと一緒にいるからっ!だからっ…!」
側にいてくれよと、言うシャンクスの言葉は花子によって遮られた。唇に触れる指先は凄く冷たく感じた。
「ねぇ、シャンクス。きっとロジャーはその麦わら帽子と共に貴方に何かを託したんだと思うの。」
「っ!」
ー花子の事…頼んだぜ。ー
海賊団が解散する時、ロジャーは彼にそう告げた。彼は気付いていたのかもしれない。シャンクスの秘めた想いを…。
『見付かったか!?』
『くそっ、何処に逃げたっ!?』
「?!」
「…そろそろ時間切れみたいね。」
微かに聞こえる海兵達の声。見付かるのも時間の問題だ。ハッと顔を上げたシャンクスを抱き締め花子は彼の額にキスをした。
「大好きよ、シャンクス。…さようなら。」
「まっ…?!」
そう言って微笑んだ花子の頬を一筋の涙が伝う。トンッとシャンクスの肩を押すとそのまま彼女の身体は海に投げ出された。
「花子さぁああぁんっ!?」
身を乗り出し花子を掴もうと伸ばされた手は虚しく空を切る。ザバァンッと大きな音と水飛沫を上げ、彼女の姿は海に消えていった…。
(ロジャー…私もすぐに貴方の元へ…。)
ゆっくりと沈んでいく身体。冷たい海水が肺に入ってくる。朦朧とする意識の中、花子はロジャーの声が聞こえた気がした。
ー馬鹿野郎…お前の来る場所は…ここじゃねぇ。ー