第1章 処刑の日
面を外した花子を見つめ群衆からは動揺の声が漏れる。彼女の素顔を知る者はいない。しかし、目の前にいる女は海賊王の懐刀と呼ぶには余りにも儚げだった。
「…何故、面を外した。」
「最後くらいは顔を見てお別れを言いたいじゃない。」
何故、何も教えてくれなかったのか、自分を1人にしないと約束したではないかと…。本当は今すぐにでも彼に縋り付きたい気持ちを必死に堪え笑顔を見せる花子に、ロジャーはふと顔を綻ばせる。
「なぁ…花子。お前は…幸せだったか?」
「黙れっ!話す許可は下ろしていない!」
「私は…貴方と出会えて幸せだったわ。」
「死刑を執行する!」
穏やかに微笑む花子にロジャーはそうかと呟き微かにキュッと口角を上げた。振り上げられた槍。今まさに自分の命が終わりを訃げようとしているにも関わらずロジャーは花子に笑い掛けた。
「お前は…自由に生きろ!」
「っ!」
その顔はあの海賊王と恐れられた男とは思えない程…優しいものだった。
ーーーーーー
「っ…ロジャー…っ!」
ロジャーの身体を槍が貫いた。彼の死を目の当たりにした花子はその場に泣き崩れ何度も彼の名を叫ぶ。その悲痛な姿に涙する者もいたが海兵達は銃を構え彼女の周りを取り囲んだ。
「剣姫!貴様もここで処刑する!」
「…っ。」
鳴り響く銃声、民衆の悲鳴が木霊する。無数に放たれた銃弾が花子に襲い掛かった。
「なっ…!あの数の銃弾を一瞬で…?!」
「…ごめんなさい。この命…貴方達にあげる程安くないの。」
それは一瞬の出来事だった。何が起こったかも分からず、花子が刀を鞘に納めると放たれた銃弾はポトリと地面に落ち真っ2つに斬り捨てられていた。
「…さようなら。」
穏やかな微笑みを浮かべた花子の姿は立ち込める煙と共に何処かに消えてしまった。
「消えた…だとっ?!」
「おのれっ!奴の奇術か!?」
「探せっ!絶対に逃がすなっ!」
突然の花子失踪。海兵達の怒号が響き、民衆も戸惑いを隠せずにいる。混乱状態のその場に只1人、花子のいた場所を見つめ悲しそうな表情をしている人物がいた。
「花子さん…。」
流れ落ちる涙を拭い、その人物は何処かへと走り出した。