第3章 生まれてきてくれて…
「彼を失った少女は…海に身を投げました。せめて最後は…彼の愛した海と共にいたいと…。」
悲しそうに笑う花子の瞳からはポロポロと涙が溢れ落ちていた。その姿は今にも消えてしまいそうな程、儚く見える。
「でも、この話には続きがあるの。」
「続き?」
「生き延びた少女の前に1人の少年が現れました。」
太陽の様な温かい笑顔…少女は一目見て彼が男の子だと分かりました。エースの頬に手を添え花子は嬉しそうに微笑む。
「立派に育った彼の子供の姿を見て…少女は嬉しく思いました。」
「っ!」
「彼の宝物が生まれてきてくれた事を…彼のっ…守りたかったものが、生きてくれていた事をっ…!」
力強く自分を抱き締める花子にエースはぎゅっと胸を締め付けられた。自分は生まれてきて良かったのか…誰にも必要とされていないのでは無いかと…そう思っていた。
「生まれてきてくれてっ…ありがとうっ…!」
その言葉が欲しかった…只、その一言だけが…。縋り付く様に花子を抱き締めるとエースは子供の様に泣きじゃくる。
ーーーーーー
「…俺さ、キンジからお前の話聞いた事あるんだ。」
「話長かったでしょ?」
「かなりな。」
どれ程花子が素晴らしいか、どれ程彼女が強かったか。たまにロジャーの悪口も入っていたが、耳にタコが出来る程暇さえあれは花子の事をキンジはエースとルフィに話していた。
「あんな野郎に着いていくなんて、どんなイカレた女かと思ったが…それと同時に羨ましくも思った。」
「…。」
「そこまで自分を慕ってくれる仲間がいる事が…自分を愛してくれる奴がいる事が。」
少し寂しそうに呟くエースの頭を花子は優しく撫で笑いかけた。その微笑みにエースの胸がドキッと跳ねる。
「これから見付けていけばいいのよ。」
「…俺に出来るかな?」
「海は広いもの。あなたを大切に思ってくれる人はきっと見つかるわ。それに…。」
ふと後ろを振り返る花子に首を傾げ、同じ方向に顔を向けたエースは目を見開いた。
「あなたを愛してくれる人は…もういるじゃない。」
そこには笑顔で駆け寄ってくるルフィ。少しホッとした顔のダダン。優しく微笑んでいる彼女の子分とキンジの姿があった。