第15章 ビビとの別れ
花子 side
「気付けばお前の事を目で追っちまう。お前が…他の奴を思って泣いてっと苛付くんだ。」
ゾロはまるでその感情を握り潰す様に自分の胸の辺りの服を掴む。何故、苛立つのか…何故、こんなにも胸が苦しいのか…。
(その感情は…きっと…。)
でも…これは私が言う事ではない…。もし、教えてしまえば彼は戸惑うだろう。それに…この感情は一時のもの。
「私が自分より強いから…だからゾロは気になるのよ。」
「…確かにお前は強ぇ…だが、こんな感情くいなやあの海軍の女…ナミの奴にだって感じた事は無い。」
私を見つめるゾロの瞳に思わずドキリと胸が跳ねた。戸惑いながらも熱く…真っ直ぐな目…。それはルージュを見つめるあの人のものと似ていた。
(駄目…。)
お願い…これ以上踏み込まないで…。その目で見つめられると願ってしまう…。
「…他の奴の事なんか考えんじゃねぇ。」
「っ!」
眉間に皺を寄せゾロは私の頬を包み込み目線を合わせる様に顔を上に向かせる。彼の瞳に映っている私は情けない顔をしていた。
「今、お前の目の前にいるのは俺だろっ。」
苦しそうに顔を歪めているゾロは何処かこの感情の理由を教えて欲しいと縋っている様にも見える。
「無理に忘れろとは言わねぇ…だが、今お前の目の前にいるのは俺だろ。」
「ゾ…っ?!」
近付いて来るゾロの顔を止めるよりも早く私の唇は彼によって塞がれた。触れるだけの子供みたいなキス。
「こうして…お前に触れたいと思う。」
ちゅっと音をたて唇を離したゾロは私のおでこに自分の額をくっ付ける。その声は迷子の子供の様に弱々しかった。
「お前の瞳に映るのが…お前の隣にいるのが俺でありたい。」
「っ!」
掻き抱く様に私の髪をくしゃりと握り締めた後、優しく頬を撫でるゾロの瞳はいつもの勝ち気なものとは違い甘く…柔らかい…。
「…ゾロ…私は…。」
今、彼の胸に飛び込んだらどんなに幸せだろう…。愛されたかった…その瞳に私だけを映して欲しかった…。
「…私は…もう誰かを愛する事はないわ…。」
でも、それは…彼を傷付けてしまう…。