第3章 生まれてきてくれて…
キンジに呼び出されエースはいつもの岬で座り込み海を眺めていた。太陽に照らされた海面はキラキラと輝いていて、澄み渡る青い空は彼の心とは裏腹に晴れやかである。
(キンジの奴、怒ってんだろうなぁ…。)
この数ヶ月彼の花子に対する態度を見ていたがあれは異常だ。妹相手に向けるには余りにも執着が強く、もっと別の感情があるのではないかとエースは感じていた。
「…エース…君?」
「…花子。」
ガサッと草を踏み締める音が聞こえ後ろを振り返ると戸惑った様子の花子がそこにいた。一瞬、何故彼女がここにと思ったが多分キンジの仕業だろうと、今頃へらへらと笑っている彼に心の中で悪態を付く。
「隣…いいかしら?」
「…あぁ。」
花子も何かを察したのか柔らかくエースに笑いかける。避けられなかった事にホッと安堵し静かに彼の隣に腰を下ろした。
「前もここで会ったよね。お気に入りなの?」
「…あぁ。」
幼い頃から嫌な事や考え事をする時、エースはこの場所で1人海を眺める。サボを失いルフィと誓い合ったのもこの場所だ。
「…あれから色々考えたの。今、あの人に対する世間の目はどうなんだろうって…。」
「…。」
「町にも行ってみた、少し離れた島にも…。ふふっ…あの人、随分色んな人に恨まれているみたいね。」
海を眺めている花子の顔は穏やかに見えるのに…何処か悲しそうで、エースは苦しくなる胸をぎゅっと押さえる。
「…お前、あいつの船にいたんだろ?」
「知ってたの?」
「キンジとダダンが話てんのたまたま聞いた。」
しかし、エースの中にある疑問が生まれた。自分が子供の頃に聞いた剣姫の話と今の花子の年齢を考えると計算が合わない。
「お前は…何者なんだ?」
自分を見つめるエースの瞳は、疑うでも突き放すでもなく、只純粋に花子の事を知りたい…そんな思いを感じられた。
「…ねぇ、エース君。少し、昔話に付き合ってくれる?」
花子はにっこりと微笑むと愛しいものを見つめる様な瞳で海を眺めた。