第1章 処刑の日
【ローグタウン】
人混みを掻き分け1人の女が街を走り抜けていく。ぶつかる人にも目もくれず、ある場所を目指して。
(お願いっ、間に合ってっ!)
溢れ落ちそうになる涙を必死に堪える様に唇を噛み締めていた。
(早くっ…あの人の元に行かないとっ!)
この時、彼女は思いもしなかっただろう。自分の運命が大きく変わってしまう事など…。
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ジリジリと照り付ける太陽の中、処刑台のある広場には多くの民衆がある人物を一目見ようと集まっていた。
「…。」
カチャリ、カチャリと音を立て手枷を嵌められた男がゆっくりと処刑台に向かっていく。その堂々とした姿に誰もが息を飲みじっと見つめていた。
「さぁ、さっさと終わらせちまおうぜ。」
処刑台に上がった男は逃げるでも泣き叫ぶでも無く、ニヤリと笑みを浮かべその場にドカリと座り込んだ。
「なぁ、海賊王!集めた宝は何処に隠したんだ!?あんたは手に入れたんだろ!あの大秘宝を!あの…ひとつなぎの大秘宝を!【ワンピース】をよぉーっ!!」
男はその問いにくっと喉を鳴らすと声高らかに笑い出す。
「ふっふっふっ…はっはっはっ!俺の財宝か?欲しけりゃくれてやる!探せぇ!この世の全てをそこに置いてきた!」
この時、誰が想像しただろう。この男の言葉で時代が大きく変わる事など…。
「っ、ロジャーっ!!」
沸き上がる歓声を遮る様に女の声が響き渡る。仮面を被った彼女の姿を目にした誰もが驚き目を見開いた。
「あの女っ…まさかっ?!」
「どうしてっ…ロジャー…!」
周りの視線を一身に受けるも女は今にも泣き出しそうな声で男に問い掛ける。1歩1歩男に近付いていく女を導く様に、民衆が道を開ける。
「花子だっ!海賊王の懐刀"剣姫"の花子だ!」
「引っ捕らえろぉー!」
控えていた海兵達が武器を構え襲い掛かる。しかし、彼等は女に触れる事無くその場に倒れ込み失神した。
「邪魔…しないで。」
冷たく凍り付く様な声、彼女が纏うオーラに誰も動けずにいた。自分を見上げる女に男は顔を歪める。
「花子…何故来た。」
「…っ!」
顔を俯かせぐっと唇を噛んだ女は素顔を隠していた仮面をそっと外した。