第13章 ユバ・レインベース
手枷を嵌められ膝を付く花子をクロコダイルは愉快そうに見下ろしている。やっと見付けたと言う彼の言葉に花子は疑問を覚えた。
「見付けたってどう言う事?あなたと私は初対面の筈よ。」
「あぁ…お前とこうして会話をするのは初めてだ。だが、俺はお前を知っている。」
海賊王のクルーだった花子の名を知る者は多い。しかし、どう言う理由か彼女の素顔を知る者は殆どいなかったのだ。
「お前は随分とあの男に大事にされていたんだな。手配書の顔は仮面で隠され、お前の素顔を知るのは海軍でも限られた奴だけだった。」
「あ…。」
花子はふとロジャーの言葉を思い出す。それは彼女の手配書が出る前、花子の存在が世間に知れ渡る時の事。
ー仮面、着けろ。ー
ー…何でよ。ー
ー女が顔に傷付けるもんじゃねぇからな!ー
(ロジャー…。)
彼はずっと花子の事を守っていたのだ。自分の手を離れた後も花子が平穏に暮らせる様に…。
「22年前、お前の素顔を見た時…俺は初めて胸が震えるのを感じた。」
ぐっと顎を掴み花子の顔を見つめるクロコダイルの瞳はまるで喉から手が出る程欲しかった物を手に入れた様に恍惚としていた。
「黒曜石の様に深く、鋭い…美しい瞳だ。」
「…随分とお世辞がお上手なのね。」
「クハハッ!良い女は愛でるもんだろ?」
彼の手から逃れる様に顔を背け悪態をつく奈津子にくっと喉を鳴らすと、クロコダイルは彼女に背を向けた。
「お前も来い、面白いものが見れるぞ。」
今ここで事を起こすのは上策じゃないと判断した花子は無言で立ち上がる。
「それじゃあ、私は別の場所に向かうわ。」
ある1室の部屋の前に辿り着くとMs.オールサンデーがクロコダイルに声をかける。彼女がいなくなれば逃げ出す事が出来るかもしれないと花子は様子を伺う。
「変な気は起こさない事ね…あの子の為にも、貴女の大切な仲間の為にも。」
「…。」
苦虫を噛んだ様に顔を歪める花子を可笑しそうに見つめ、Ms.オールサンデーはそっと彼女の耳元で囁いた。
「あの子…綺麗な瞳ね。まるで海に愛されたお姫様みたい…。」
「?!」
驚き目を見開く花子に対しMs.オールサンデーは意味深げな笑みを浮かべ姿を消した。