第12章 ナノハナ
花子 side
エースの強い意志に私は何も言えなかった。やっと見付けた家族だからエースもティーチの事が許せなかったのね。
「もう何も言わないわ。その代わり…約束して。」
「約束?」
「絶対、無茶はしない事。もし危険だと感じたら直ぐに逃げる事。」
エースは確かに強い。でも…ティーチは危険過ぎる。私の言葉にエースは苦笑いを浮べ頷いた。
「そう言やぁ、オヤジが花子に謝ってたぞ。」
「ニューゲードが?」
「お前の助言に耳を傾けなかったから罰が当たったんだって。」
成る程ね…。ニューゲードの元を去る日、私は彼にティーチの事を話した。
ー…ニューゲード、ティーチには気を付けて。ー
ーあ?ティーチ?ー
ー彼は危険よ、内にある野心はいつかあなたに牙を向くかもしれない。ー
ー…いくらおめぇでも俺の家族を侮辱する事は許さねぇぞ。ー
あれは相当怒ってたわね。覇気は使ってないものの、それと同等の殺気を送られた。まぁ、自分の大切な家族を疑われたのだから当然ね。
「別に謝る必要無いのに。」
「凄ぇ落ち込んでたぞ。花子に嫌われたかもしれねぇって。大好きな酒も喉を通らねぇくらいに。」
「あら、それは身体には良い事ね。」
あの大きな身体を小さくさせ落ち込んでいる彼の姿を想像すると何だか笑いが込み上げてきちゃう。エースも同じ事を思ったのか可笑しそうに口元を緩ませていた。
「なぁ…花子…お前はまだあいつの事が好きか?」
「…そうね。」
真剣な眼差しで見つめるエースに私はふと目を逸らす。私にとってあの人は全てだった。どんな形でもいい…あの人と同じ世界にいたかった…。
「諦めないといけない事は分かっているの。あの人はもうこの世にいない…私も前に進まないとって…。」
でも…どうしてもふとした時に彼の姿を探してしまう。前の様に優しく私の名前を呼んでくれるんじゃないかって…名前を呼べば私の大好きな笑顔で答えてくれるんじゃないかって…。
「あの人を思い出すから私は海に出る事を拒んだ。」
自由に生きろと言ってくれたのに私は未だに過去に縛られたまま。このままじゃ駄目だと思い海に出たのに何も変わっていない。
「こんなんじゃ…あの人に怒られちゃうわ。」
戯けた様に笑う私に対しエースはきゅっと顔を顰め何も言わず私を抱き締めた。