第10章 リトルガーデン
電伝虫を見つめユラの事を伝えた時のキンジの態度を思い出し、花子は組んだ手に額を当て溜息を漏らす。
ぷるぷるぷるっ
「!?」
着信を知らせる電伝虫の声が聞こえ花子は慌てた様に顔を上げ勢い良く受話器を取った。
「もしもし?キンジ、どうだったの?」
《…花子はん。》
暗く沈んだ様なキンジの声に花子の不安が大きくなる。そんな彼女に気付いたのか笑顔を作る彼だったがその声に覇気は無かった。
《まず、質問なんやけど…その痣に気付いたんは今日やったん?》
「えぇ、お風呂に入った時に…。ユラ、元々肌が白いから今日まで気付かなかったけど…。」
《…さよか。》
悔しそうに顔を顰めるキンジに花子はドクドクと早鐘を打つ胸をぐっと押さえた。
《あんな…ユラは…「おかあさぁん〜!島に着いたよぉ〜!」
真剣な眼差しで自分を見つめる瞳にゴクリと唾を飲み込んだ時、サンジに抱えられたユラが弾んだ声で花子に声をかけた。
「お電話してたの?キンジ?」
「えぇ、そうよ。」
《おぉ〜、ユラぁ〜。相変わらず元気やなぁ〜。》
久々のキンジの声にユラは目を輝かせ花子の膝に飛び乗る。楽しそうに船での生活を話すユラを見つめるキンジの眼差しは柔らかいものだった。
「サンジ君は何を作ってるの?」
「ルフィとビビちゃんが島に上陸するってんで弁当を頼まれたんだ。」
手際良く料理を作るサンジを見つめる花子にユラは何か思い出した様に彼女に振り返った。
「ルフィがおかあさん呼んできてって!一緒に島を冒険しようって!」
「私は…。」
ワクワクした満面の笑みで自分を見上げるユラに一瞬花子は口籠る。本当だったら一緒に行ってあげたいところだが、今彼女の気持ちは別の所にあった。
「少し待っててくれるかしら?今キンジとお話していたの。」
「えぇ〜…。」
《ええよ、行ってきい。》
もう少し詳しく調べてからまた連絡すると一方的に通信を切ったキンジの態度に花子は不安を募らせる。
(大丈夫かい?)
(えぇ…私達も甲板に行きましょう。)
(冒険冒険っ♪)
(ははっ、ユラちゃんは元気だなぁ。)