第9章 ウイスキーピーク
ゾロ side
「お疲れ様。」
刀を鞘に納めた俺に花子は笑顔で近付いて来る。何処からくすねてきたのかその手には酒瓶が握られていた。
「危なくなったら助けてあげようと思ったけど必要無かったみたいね。」
「けっ、俺があの程度でやられるかよ。」
投げ渡された酒瓶を受け取り一気に呷る。人数は多かったが所詮は素人に毛が生えた奴等だ、俺の敵じゃねぇ。
「ルフィ、そろそろ起きなさい。」
「ん〜…もう食えねぇよぉ〜…。」
「もう…。」
あの騒動で外に転がり出たルフィに花子が声をかける。起きる様子のねぇこいつに呆れた顔をするも何処か優しげに見える。
「この様子じゃまだ起きないわね…。」
「寝かしとけ。」
また敵襲があっても俺が対処すりゃあ問題ねぇ。ルフィを起こす事を諦めた花子は近くにある木箱に腰を下ろした。
「ゾロ君は世界一の大剣豪になるのが夢なのよね?」
「…あぁ。」
世界一の大剣豪、それが俺の夢だ。あいつの…くいなのとこにまで俺の名が届く様に。その為に俺は海に出たんだ。
「ミホークには会ったの?」
「あぁ…勝負を挑んだが、惨敗した。」
奴と刀を交えて俺は自分の未熟さを思い知らされた。あの男を倒すにはまだまだ力が足りねぇ。
「お前は、鷹の目と戦った事あるんだろ?」
「海賊団が解散して気ままに旅をしていた時に何度かね。」
まただ…こいつは自分の海賊団の話をする時、ふと悲しげに笑う。そりゃあ好きで入ったんだから解散したら悲しいだろうが、それとは別の何かがある気がする。
「…お前は、海賊王の事が好きだったのか?」
「あら、ゾロ君がそんな話をするなんて意外ね。」
何で俺はそんな事聞いてんだ?他人の事なんてどうでも良い筈なのに、何故かこいつの事が気になっちまった。
「大好き…だったわ…。」
「っ!」
そう呟いた花子にドクリと心臓が跳ねた。その表情は柔らかく、だが消えちまいそうな程儚かった。気付けば俺は花子を抱き締めていた。
「?!」
突然の俺の行動に身体を強張らせる花子に構う事無くこいつの唇に自分のを重ねた。