第2章 貴方の宝物
キンジは花子と同じ師匠に育ててもらった所謂、弟弟子。同じ年ではあったが自分を慕ってくれる彼を彼女も本当の弟の様に可愛がっていた。
「本当に…キンジなのね。」
「ウチの質問は無視かいな…。」
呆れた様な声を漏らすがその顔からは感情が読み取る事は出来ない。しかし、花子は確信していた。キラキラと輝く金髪、美しい緑の瞳。見た目は大人びているが目の前にいる男は自分が可愛がっていた弟弟子だと。
「あなた、今すっごく苛付いてるでしょ?」
「…そんな事ないで?」
「私の目は誤魔化せないわよ。だって…。」
くすくすと可笑しそうに笑う花子に苛立ちを覚えたのは確かだが、感情を表に出す事無くキンジは笑顔を作る。自分の演技は完璧だ、見破られる筈が無い。
「あなた、イライラすると右の眉がピクリと動くんだもの。」
「?!」
自分の右の眉を指差す花子にキンジの瞳が微かに揺れた。普通の人なら気付かない僅かな彼の癖を見抜けるのは花子と自分を育ててくれた恩師だけなのだから。
「な…にを…。」
「幼い頃からずっと見てきたんだもの。自分の可愛い弟を見間違う筈無いじゃない。」
ーキンジは私の可愛い弟だよ!ー
柔らかく微笑みかける花子の顔に幼い頃の記憶が甦る。周りに味方もおらず1人だった自分を彼女は優しく包み込んでくれた。
「ホンマに…花子はんなんか…?」
明らかに戸惑いを見せるキンジに花子は着ている服の釦に手を掛けた。突然の彼女の行動に驚きはしたものの、結局色仕掛けで丸め込もうと言う魂胆なのかと、昂ぶっていた感情が一気に冷静になる。
「これを見てもまだ信じてくれない?」
「?!それはっ…!?」
胸元を肌蹴させた花子の左胸には大人の拳大程のジョリーロジャーが刻まれていた。首輪の様にリングの上に鎮座する髑髏の後ろで交差する1本の刀と桜の枝。その周りには花弁が散りばめられており、そのマークを見たキンジは目を見開いた。
ー何じゃこりゃあぁっ?!ー
ーいいでしょ?ロジャーが私にくれたの!ー
ー何ちゅうモン花子はんの身体に刻み付けとんねんっ!?ー
烈火の如く怒り狂う自分をよそに嬉しそうにしている彼女をキンジは良く覚えていた。