第5章 ももいろのちかい【桃】
「さとみさ、今日の夜とか空いてたるする?」
「え?あー、大丈夫だと思うけどなんで?」
「ちょっと臨時収入はいったから、お寿司か焼肉行かない?」
「お、いいじゃん!いいじゃん!」
「どっちにするかはさとみにまかせる」
「じゃ、最近筋トレしてるから肉かな」
「了解、お店予約しとく」
「おう!」
珍しく、くろばからのお誘い。
めちゃくちゃ嬉しい!
自宅での作業が多い職業柄、外でデートをする事なんか滅多にない。
いや、家に居た方が色々と都合が良いのもあるから、それはそれで別に良いんだけど…
それを差し引いたとしても、くろばから、よもやデートのお誘いなど滅多にない。
…動画の目処着いたら、美容室にでも行ってくるか?
なんて、まるで自分の方が彼女なのではないかと思うぐらい乙女思考になってしまう。
朝食を食べ終えたあと、くろばは俺が自宅に作った筋トレルームに篭っているようだった。
最初は体を動かしたくないなどと言っていたが、俺が筋トレにハマったのをきっかけに、くろばもちょこちょこトレーニングルームに足を運んでいるようだった。
一見何もしないように見てるくろばだが、いつも俺が疲れているようなタイミングの時に限ってご飯を作ってくれたり掃除をしてくれたりする。
くろばと俺が一緒に住む条件の一つ、家事は基本的に全て俺がするという事。
それは別に変にお互いを強制したというワケではなく、俺が勝手に家の事をされたくないという考えが当時はあったからだ。
くろばはその俺の提案をするり飲んでくれて、むしろ家事など一切したくないから助かるなどと微笑んでいたのを今でも覚えている。
今となっては、くろばの世話を全部俺が焼きたいぐらいだ。
だからくろばが使ったあとの筋トレルームはいつも綺麗で、俺が使ったままの物はそのままに。
変に綺麗に片付けないでいてくれている。
あー、もうこれ一生手放せないわ。
くろばに溺れている自分に、最初の頃は戸惑っていたものの、今となってはクシャミをした瞬間にくろばへの愛を叫びそうになっている自分がいる。