第5章 ももいろのちかい【桃】
無理がない限りは、俺がこの家の食事担当となっている。
そして、同じ家に住んでいるものの、互いに特殊な職種のせいで顔を会わせられない日もある。
俺はYouTuberで、くろばはネットで株を売り買いして生計を立てている。
少し似ているようで全然違う職種。
似ている所をあげるとするなら、室内や家に居る時間が、他の職種よりも比較的に多い事ではないだろうか。
「くろばは今日何してんの?」
「んー、とりあえず夜中に目処が立ったから、今日は一日ゆっくりしてるつもり。さとみは?」
「俺はとりあえず動画撮って編集してって感じで、あんまいつもと変わんない。一応俺もずっと家に居るよ」
一日の予定を話しながら朝食を食べる。
これが昼食になったり、夕食になったり、はたまた夜中になったり。
仕事の時間に口を出さない。
これは同棲する時に決めた条件の一つ。
最初はこのドライな関係が心地よかったのだが、くろばの事がたまらく好きになっていって、今では甘えた彼氏へと昇格してしまっている。
けどそんな俺をくろばも受け入れてくれていて…
ごくたまに。
ごくたまにではあるけれど、くろばから甘えてくれる事も増えたと思う。
「ね、さとみ」
「ん?」
「おかわり」
「…あいよ」
危うく口から物出そうになったわ。
いや、口の中に物がなくてもなんか出るわ今のは。
"おかわり"なんて言葉、毎日のようにくろばから聞く言葉ではあるが、自分の性癖にドンピシャなのか、いつも邪な気持ちになりそうになる。
「ご馳走様でした」
「お粗末様でした」
「今日も美味しかった。ありがとうさとみ」
「うん、喜んでくれて何より」
最初の頃のくろばの印象は超クール。
俺の第一印象もそう言われがちだか、くろばは更に俺のもっと上をいっているだろう。
だがプライベートのくろばは、挨拶やマナーなど、人への感謝の気持ちを忘れない。
そんな所が、仕事にも生かされているのか、今のところ一生食いっぱぐれる心配はないと言っていた。
俺の彼女ハイスペック過ぎかよ。