第3章 むらさきいろのやきもち【紫】
くろばの唇に目線がとまり、思わずゴクリと唾を飲み込んだ。
「…なーくん?」
「ハッ…!!??」
「ほ、本当に大丈夫?」
「だ、大丈夫大丈夫!!」
「そ、そう…?なら良いけど…」
あ、あぶねー…
仕事詰めの時のくろばの破壊力を忘れてた。
前にイベントで全国を回っていた時に、くろばも一緒にスタッフとしてついてきてくれた事があった。
過酷なハードスケジュールも、リスナーのみんなのおかげで乗り切れたのは間違いないけど、くろばが一緒に居てくれた事もでかかったと思う。
「ね、なーくん」
「ん?なあに?」
「目、つむって?」
「へ…?」
「だから、目」
は…?
ハアアアアアアアアア…!!??
「え、ちょっとくろばちゃ…」
「ほら、早く!」
「は、はいっ…!!!」
な、ナニナニナニナニナニナニ…!!!!!????
も、もしかしてキ、キキキ…!!!
頭の中がキャパオーバーになり、くろばの言う通り堅く目をつむった。
だが、期待した感触は一向に訪れず、その代わりに全身を心地の良い風が吹き抜けていった。
「ん〜!!タイミングばっちり!ちょうど風が通り抜けていったね〜!」
いつの間にか俺の腕からくろばの手は離されていて、俺の隣に座りなおして大きく体を伸ばしていた。
「ね、気持ち良いでしょ?」
「う、うん…!!めちゃめちゃ気持ち良いね…!?」
な、何考えてんだ俺は…!
変な事を考えてしまった自分を情けなく思い、それを払拭するかのように、俺もくろばにならって大きく伸びをした。
「へへへ、良かった!」
…ヤバイヤバイヤバイ。
くろばの笑顔が眩し過ぎる。
一度変な事を考えてしまったため、くろばの顔がまともに見れない。
「あ、なーくん喉乾いてない?」
俺が脳内で大反省会を開いている最中、くろばがちょうど良いタイミングで話題を切り出してくる。
くろばのこういうタイミングの良い所も、本当に好きかも…
「じゃーん!特製のフルーツティーで〜す!少しハーブも入れたから、そんなに甘くなってないハズ…」
コップに注ぐために傾けた水筒の中のフルーツとハーブがゆっくりと揺れる。